5者のコラム 「5者」Vol.94

電車内痴漢男の「膜」

田房永子氏のブログ「女印良品」に次の記述があります。 

彼ら(痴漢男)にとっては自分が相手に加害を加えているというよりも自分の世界、自分の半径1メートルを覆う膜のようなものの中に女の子が入ってきたという感覚なんだ。ハタから見ると充血した眼で股間ふくらませて女の子に不自然に近寄ってるだけなのに、彼らの頭の中では女の子のほうが誘ってきてるくらいの感覚なんだ。(略)そのあと私は電車内痴漢に関する取材を重ねた。電車内痴漢加害をしている最中の者はやはり「自分の半径1メートルを覆う『膜』のようなもの」を持っていると感じた。自分の『膜』の中に入ってきたのは女のほうであり何故かその女のことを何をしてもいい「もの」のような感覚で捉えていて、そこから独自のストーリー(大抵は「女のほうが欲情している」というもの)を展開させ、それに沿って行動している。だから「相手の女性は痴漢行為を受け入れている・喜んでいる」と解釈したり「電車の中で触られたがっているけど自分からは言い出せない女の子を触ってあげている」と親切心のようなものを持っていたりする。その行動自体は、まったくムチャクチャで一方的で意味不明なのだが、彼らの『膜』の中では矛盾がない。

見事な説明です。難しい言い方を使うと上記記述は電車内痴漢加害をする男の「世界」に関する素晴らしい現象学的な描写になっています。薄い「膜」自体は誰でも持っていて(ハイデガーはこれを「世界」と定義)その膜を通して存在を形成しています。しかし電車内痴漢をする男の「膜」は歪んだもの(ビョ-キ)です。それは多数の人間との良好な社会生活の結果として形成されたものではなく2次元の世界で観念的に形成されたものです。それゆえに他者の日常的な感覚とかけ離れているのです。これを根本的に矯正(治療)するためには本人に「膜」の歪みを認識させた上で現実の人間関係にあわせて作り替えることが必要なのでしょう。

医者

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