5者のコラム 「医者」Vol.94

技術の発展段階

ルイス・トマスは医療技術の3段階を提案しています(桐野高明「医療の選択」岩波新書)。

①「非技術」(患者の身の回りの世話をし、ときには励まして回復を手助けする段階。直接の治療とは言えないにしても現在でも医療の大きな比重を占める。費用は少額)。②「途上的技術」 (病気の原因そのものではなく症状の緩和を目指す技術。対症療法であり病気そのものの治癒を意味するものではない。しばしば莫大な費用を要する。)③「純粋技術」(疾病の原因の根本的な予防や治療が可能となる技術(天然痘に対する種痘・コレラに対する抗生物質・胃潰瘍に対するピロリ菌除去など。費用は限定的)。

これに対して弁護士実務においては上記3段階が明瞭に分類されていません。
1「非技術」依頼者の身の回りの世話をし、ときに励まして回復を手助けする段階。
2「途上的技術」 依頼者の苦痛の緩和を目指す技術。対症療法。
3「純粋技術」    紛争の原因の根本的な予防や解決が可能となる技術。
 法的技術が「紛争原因の根本的な解決」となる場面も存在します。しかし例えば損害賠償請求という制度は被害者に生じた損害を金銭的に評価し加害者から被害者に支払わせることを目指すだけです。死傷は絶対に覆りません。被害者の「経済的苦痛の緩和を目指す」技術です(経済的回復すら出来ないことも少なくない)。弁護士の法的技術は現代においても「依頼者の身の回りの世話をし、ときに励まして回復を手助けする」ことが基本かもしれません。依頼者の「自己回復力を発揮させるための環境調整」に留まるという側面も少なくないようです。弁護士は、こういった発展段階を参照しながら、法的技術の意義と限界を認識する必要があります。

5者

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