5者のコラム 「5者」Vol.114

異界の同行2人

保坂和志「考える練習」(大和書房)のなかに次のフレーズがあります。

「中井久夫は、治療者というものは患者と切り離されて存在しているものではなく、絶えず患者とのやり取りの中で患者から影響を受けながら治療行為を続けていくってことを言っていてそれが彼の基本的スタンスなのね。つまり、治療者は治療行為の外側にいるわけではない。治療という行為のサイクルの中に治療者も患者も両方がいる。」

弁護士の訴訟行為も依頼者と切り離されて存在しているものではありません。依頼者とのやり取りの中で、依頼者から影響を受けながら訴訟行為を続けていくものです。弁護士と依頼者は訴訟行為の外側にいるわけではない。「訴訟遂行関係」という大きなサイクルの中に弁護士と依頼者の両方がいる。両者の関係性がまず形成され、その結果、弁護士と依頼者が果たすべき役割が自ずと形創られてゆくのですね。逆に言うと、初期段階で依頼者との良い関係性を創ることに失敗した場合、弁護士は訴訟遂行に大変な苦労を負います。私は役者86において「異界に彷徨いこんだ依頼者と共に出口を探し歩いていくイメージ」を描いています(15/4/17)。中井先生の指摘を若干スピリチュアルに表現すれば弁護士は依頼者に対して「自分は現世にいて高みの見物をする」のではなく「自分も異界に下りてゆき異界の成り立ちやルールを教えて導く(異界の同行二人)イメージを抱く必要がある」ということなのでしょうね(言うは易く・行うは難いものの典型ですけど)。中井先生には次のような名言もあります。「処方箋を患者に渡すとき『効きますように』と祈りの言葉を添えるのも良いだろう。」祈りの言葉ととともに渡された薬は本当に効くようになるのです(プラセボ効果)。これを下敷きにすると、弁護士も依頼者に対し「幸せになってね」という祈りの言葉を添えながら仕事をするのが良いということになるのでしょう。

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