歴史散歩 Vol.122

筑後のうどん

地元の人はあまり意識していませんが筑後地方には多くの製粉工場が存在します。これは筑後川と矢部川の豊富な水と肥沃な土地によって米と小麦の二毛作が可能であったことを背景としています。筑後地区では早くから小麦が栽培されました。これを粉にするために古くは水車小屋が、近代では製粉工場が発達し、作られた小麦粉をおいしく食べるための麺文化が発達しました。汁に小麦粉を溶いた団子状の具を入れた「だご汁」がよく出されました。これを細く延ばしたものが筑後のうどん(延べだご汁)です。我が家を含めて、昔、うどんは多くの家庭で作られていました。
 全国的に名高いうどんの本場は讃岐。「讃岐うどん」と「筑後うどん」の違いは味の優劣と言うよりも文化に根ざしたうどんの位置づけの違いの問題であるようです。讃岐うどんは主食(ご飯の代わり) という位置づけであり、うどんでお腹をいっぱいにするため強靭な腰を持つ麺が好まれました。汁でお腹が膨れないように、麺自体を生醤油・ぶっかけ・ざる・釜揚げ等でいただく食文化が発達しました。うどんは主食的扱いであるため、うどん店は朝早くから開店しており、朝食にうどんを食べて出勤する風景が見受けられます。これに対して筑後平野では美味しい米がたくさん取れたことから、うどんは主食であるご飯を食べるときの「汁物」として食べられました。吸い物や味噌汁と同じ位置づけです。暖かいかけ汁で食べるのが一般的。腰の強いうどんはご飯のおかずとして不適当であることから麺はたんわりとして・柔らかく・粘りがある現在の品質になったと言われています。かかる位置づけの故に、麺自体を少量の薬味でいただく文化はあまり発達しなかったようです。
 私たち筑後人は普通に「ごぼう天うどん」を注文しますが、九州の外ではあまりメニューに載っていないようです。また「丸天うどん」も他の地方では少ないと聞きます。特筆すべきは筑後うどん屋さんの特徴である「おかず取り放題」の文化です。入口付近に取り放題のおかずが置かれて、各自が自分で好きなだけ取っていくスタイルは筑後独特の貴重な文化資産です。

筑後うどんの代表的店舗として「久留米荘」(津福)があげられます。昭和23年の創業です。

たんわりと柔らかく粘りがあると表現した筑後うどんの特徴を全面的に表しているうどんです。讃岐うどん帝国主義の人は好きになれないと思われます(讃岐的な腰の強さなど全くありません)。濃厚なダシでつくられた汁に柔らかい麺が煮込まれており麺に味がしみついています(いわゆる煮込みうどん)。昔の「延べだご汁」の感覚です。 このようなうどんのあり方には人によって好き嫌いがあると思われますが私は好きなタイプです。おすすめは「ごぼう天うどん」。

 「立花うどん」(高速久留米インター近く)も人気店です。昭和56年創業です。店内には多くの色紙が飾られています。この店のおすすめとして「肉うどん」をあげる方が多いようです(昆布の濃厚なスープと甘いお肉の旨味がベストマッチングという評価がネット上で見受けられました)。が、私は甘いうどんが苦手なので、この点は何とも言えません。(写真は「釜揚げうどん」)

 ここは柳川の「立花うどん」から暖簾わけをされたお店です。筑後うどんとしての柔らかさを基本にしつつも独特のコシをもった(地元ではねばりゴシという)とても美味しいお店です。柳川店は川下りの乗船場から近いので観光に出向かれた際は是非ご賞味あれ。まぜめしも好評です。

  もう1店、「つるや」(八女市・八女学院の近く)を挙げます。昔ながらの筑後うどんの良さを伝えている名店です。音を立てながら運ばれてくる揚げたての天ぷらが何とも言えず美味です。この店は丼モノも名物で、ブログで絶賛されている方が見受けられます。(写真はごぼう天うどん)

本格的な讃岐うどん店として「ゆう助うどん」(高速久留米インター近く)をあげておきます。平成20年の創業ですが、既に熱狂的ファンが多数いるようです。ここは注文を受けてから麺をゆで始めます。天ぷらも注文を受けてから揚げ始めます。他の店に比べると結構長く待たされますが、腰の強いうどんをいただけます。私のオススメは「冷やしたぬき」です。

久留米市文化財保護課小澤さんから教示を得ました。「一般的には30玉分くらいまとめて打ったうどんを一気に大窯で茹で、水にさらして絞めたものを一玉づつ取り分けます。注文が来ると、それをもう一度茹で直して提供します。『ゆう助うどん』は生麺を注文毎に茹で上げますので、うどん麺は半透明で、久留米近郊にはなかなかない見た目と食感に仕上がります。」


久留米警察署の近くにある「山忠」も美味しいお店です。自宅から近いので良く食べに行きます。取り放題のおかずがとても美味しい(きくらげ・切り干し大根・マカロニサラダ等、下の写真)。うどんは冷たい麺をすすめます(写真はざるうどん)。

 この10年ほどで福岡県内における「うどん人気」は急上昇しました。地元のテレビ局で「うどんマップ」という特番が組まれるようになった程です(岡澤アキラ氏は一躍有名に)。ですが私は食マニアではないので無理しないで回れる範囲をのんびり食べ歩きしたいなと思っています。

* 追加:久留米市長門石「つるてん」のごぼう天うどん。麺通の評価が高い。

* 追加:久留米市北野町「たもん」のごぼう天うどん。ここも麺通の評価が高い。

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