5者のコラム 「役者」Vol.76

認識していない役割を演じさせられる

 前田恒彦・元検事がこう発言しています。<弁護人が被疑者との接見内容に基づいて捜査機関に意見書を出したり、記者の取材に応じて被疑者とのやり取りを明らかにすることがあります。捜査機関にとっては「ありがたい話」です。特に捜査の初盤から中盤であれば尚更です。捜査機関は接見内容を知り得ないし仮に取調べの雑談の中で被疑者が弁護人とのやり取りを漏らすことがあっても、それが本当の話か否かの裏付けを取れません。しかし弁護人の意見書や会見内容を見れば取調べ室における被疑者の言動との違いや、そこからうかがえる被疑者の人間性、攻めるべきポイントなどが分かります。被疑者が「本音」では事件や取調ベのどの部分に不満・言い分を持っているのかも分かります。何よりも重要なのは被疑者・弁護人が捜査機関の手持ち証拠・情報をどこまで把握しており理解分析できているのかがよく分かるという点。将来の公判で具体的にどの部分が争いとなり、あらかじめどの点に「分厚い」裏付け捜査をしておくべきかも分かります。時には捜査機関が未把握だった重要事実を探すヒントが示されていることもあり、まさしく「情報の宝庫」と言えます。意見書提出や記者対応にあたっては被疑者とその可否やリスク・漏らす範囲・文言、時期などを含めてよく相談し、その了承を得ることが必要でしょう。記者を上手くコントロールして「思惑通りの記事」を書かせるにはリークに手慣れた捜査機関並みにマスコミ対応への熟練も求められるものと思います。>
 私は刑事弁護を行う際にマスコミ取材に応じたことが全くありません。自分が暴君的マスコミをコントロールできるなどとは考えていません。脚本が決まっていない中で突然舞台に立たされ自分が認識していない役割を演じさせられるのは辛すぎます。

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