5者のコラム 「医者」Vol.135

腸による身体的察知力

藤田紘一郎先生(東京医科歯科大学名誉教授)がWisdomでこう述べています。

地球上に生物が誕生した約40億年前。最初に備わった器官は腸で、脳ができたのは5億年ぐらい後なのです。つまり脳はまだこの生体にフィットしていないという訳です。脳に幸福を感じさせる物質はドーパミンやセロトニンだといわれていますが、それらはもともと腸内細菌の伝達物質でした。脳ができたから一部を脳に渡しただけなのです。ですから、いまでも脳内伝達物質といわれるセロトニンやドーパミンはみんな腸で作られています。セロトニンはいまでも腸のなかに90%ぐらいありますが脳にはたった2%しかありません。その2%のセロトニンが少なくなると鬱病になるわけです。腸を大事にしないと、セロトニンやドーパミンは脳に行きません。腸に存在するセロトニンは悪い菌が来たらワァッと反応を起こし下痢やおならを通じて体外に出そうとするのです。

腸による身体的察知力は(脳による知性的察知力より早く)修習生の段階から整備されていきます。腸による直感力は脳による思考力より年期を積んでいるのです。弁護士業務において危険を直感させる物質が何なのか良く判りませんが、おそらく身体的な伝達物質です。危険を感知させる何者かは直感によるものです。弁護士が年期を積むと何故か見た瞬間に「この人は嫌な感じがする」と身体が訴えます。それは全て腸のような地味な・非論理的・呪術的な何かによるものです。悪い菌だとワァッと反応を起こし下痢やおならを通じて体外に出そうとする。かような反応が出来ないまま弁護士が難しい事案や依頼者を抱えると「ビョ-キ」(うつ状態など)のリスクを高めることになります。弁護士が脳(知性)より腸(感覚)の判断を尊重すべき場面は遙かに多いと私は感じます。