5者のコラム 「5者」Vol.56

書き続ける動機

加藤新太郎判事は「弁護士役割論」(弘文堂)でこう述べます。

本書の目的とする規範的観点からの弁護士の役割研究にあたっては実体法からの研究はもとより裁判法ないし司法運営論を含む民事手続法レベルにおける吟味に加えて倫理の面からの考察も必要である。(中略)したがって、これを満足な形で仕上げてゆくためには深い学殖と均衡のとれた統合力が要請されるのであって、筆者がその研究の適格性に欠けることはよく分かっている。それにもかかわらず、乏しい時間とそれ以上に乏しい能力を遣り繰りして研究を続けてきたのは、第1に「期待される役割を過不足無く果たす弁護士なくして質の高い民事紛争処理なし」という思いに動機づけられた弁護士の役割解明の意義についての自覚である。第2に、これがより真実に違いのであるが、このテーマが汲めども尽きない知的興味の源泉のようなものであることによる。(はしがき)

加藤判事の上記著作は質の高い民事紛争処理を目指す裁判所から弁護士が「期待される役割」を論じたものです。処理という言葉に「上から目線」を感じます。これに対して、本コラムは、私が弁護士として自ら体験したこと・弁護士同士で議論したことなどから拾い集めたナマの知見を元に分野の異なる5つの側面から比喩的に論じているものです。国家機関からの目線ではなく弁護士自身の目線や依頼者からの目線が中心になっています。加藤判事とは逆の目線(下から目線)で記述しているところも少なくありません。しかし書き続ける動機としての「このテーマが汲めども尽きない知的興味の源泉のようなものである」との感覚は私も加藤判事と共有しています。乏しい時間とそれ以上に乏しい能力を遣り繰りしながら、このコラムを書き続けているのはそのためです。

役者

前の記事

役づくりの意識