5者のコラム 「役者」Vol.74

天才に対するリスペクト

 美輪明宏さんの言葉(「美輪明宏が語る寺山修司」)。

日本人はスキャンダルが好きで、民度が低いというのか、寺山修司というと、覗き見のおじさんだとか競馬新聞の予想屋だとか、とにかく高みにある者を引きずり下ろそうとする悪意で見ようとする。寺山も三島も、どこか笑いものにしてやろう・品位を落としてやろう・大したものではなくしてやろう、というところがありますね。一方、ヨーロッパはその才能を素直に認め、コクトーやバルザックに並ぶ素晴らしい天才だという評価をしているのです

昨年私は「黒蜥蜴」(原作江戸川乱歩・脚本三島由紀夫)を観劇しました。主演は美輪さんと木村彰吾さん。美輪さんは演出・美術・音楽も手がけています。この作品を一言で評すれば「リアル世界の紅天女」。「紅天女」は「ガラスの仮面」における劇中劇で尾崎一蓮が月影千草のために書いた幻の名作です。「黒蜥蜴」も美輪明宏以外演じることは不可能な名作。死も超越する三島由紀夫の美学を表現できる美輪明宏という希有の俳優でしか為しえない舞台です。三島の美学を完璧に理解している美輪さん亡き後、誰がこの舞台を作れるでしょう?月影千草は北島マヤ・姫川亜弓という良き後継者を得ようとしていますが美輪明宏に後継者は存在しない。特別の地位にある人々(天才)へのリスペクトが日本人には足りないように私は感じます。彼らは凄い能力を持っているのです。ねたみ・やっかみで落としめてはいけません。天才とともに生きる幸福を感じなければいけません。日本的世間に嫌気がさしてダメになった元天才がこの国にはたくさん存在します。天才の素晴らしい才能にリスペクトする器量の広さを日本人に持って欲しいなと私は常々思っています。

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