5者のコラム 「役者」Vol.36

依頼者との付き合い方

演劇プロデューサー北村明子氏は、天才野田秀樹と付き合うために以下のようなルールを自分に課していたそうです(「だから演劇は面白い」小学館101新書)。

1つ目は「プライベートな深い付き合いはしない」ということ。野田さんは人懐っこい人なので距離感がすぐに縮まってしまう。友達してならそれはそれで喜ばしいことなのですが私たちはビジネスパートナー。時にはシビアな話もしなくてはなりません。2つ目は「野田さんの耳に痛いことを言う」。彼は天才で、しかも座長でしたから、下手をすれば「裸の王様」になりかねない立場。煙たがられるのを承知で進んで意見し「それは違うのでは」と思うことには異論を唱えてきました。3つ目は面談するときには時間を1時間以内に設定し「最初の30分以内に大切なことは伝える」。人の話を聞くときの彼の集中力は30分、とこれも遊眠社時代に気付いていたので、大事なことは30分以内でカタをつけると決めたのです。

弁護士と依頼者の付き合い方は千差万別。深い人間付き合いをする弁護士がいます。仕事以外では全く接触しないタイプの弁護士もいます。私は依頼者と深い付き合いはしないことを原則としています。職務上の必要性がない限り御自宅に伺うことはありません。依頼者と2人だけで飲みに行くことも全くなかったように記憶します。次に依頼者の耳に痛いことを言うことは弁護士にとっても大切なことです。依頼者の機嫌をよくする為に、不利なことを言わなかったり反省すべき点を指摘しなかったりすると、依頼者に害悪を及ぼすことが予想されます。弁護士は将来の法律状態を的確に予想し、煙たがられるのを承知で進んで意見するところに存在意義があります。最後に私も依頼者との打ち合わせは短くしようと心がけています。打ち合わせは、なるべく30分以内に終わるように意識しています。そのために事前に準備できる点は書面を前もって送付しておきます。