5者のコラム 「役者」Vol.26

「目の動き」で判る?

映画「マルサの女」のモデル斉藤和子氏の講演を拝聴する機会に恵まれました(日本生命久留米支店開催)。要点は以下のとおり。

「目は口ほどにモノを言う」。勝負の場で真実か否かを見極めるのは「目の動き」である。人間は嘘をつくときに目が動く。しかし、この動き方には男女差がある。嘘をつくとき男は目をそらす。真の心がここにないことを目が表現してしまう。女は逆だ。嘘をつくとき女は相手の目を見る。相手が自分の嘘を見破っているか否かを見極めようとする。

弁護士業務で最も難しいとされるのは反対尋問です。反対尋問は法廷という舞台において観客たる裁判官や傍聴人の視線を意識しながら行われます。かような場面で証人が嘘を言っているか否かを瞬時に「目の動き」でつかみ切れたらどんなにか楽でしょう?私は斉藤氏のような眼力は持っていません。証人が嘘を言っているか否かを「目の動き」で判断することは出来ません。が、私は反対尋問を「法廷で嘘を吐露させる技術」とは考えていません。法廷において証人が「私は嘘を言っていました」と謝るという事態は最初から想定していません。反対尋問の目的・内容・技術については多くの書物が書かれています。しかし、これらを読んだからと言って反対尋問が上手くなるわけではありません。斉藤氏が凄い眼力を持っているといっても、事前の情報収集なしに現場に乗り込めるわけがありません。事前準備で確証に近い何かをつかんでいるからこそ、査察官は相手に自信を持って乗り込めるのです。「目の動き」は仕上げ(最後の駄目押し)に過ぎません。同様に反対尋問も事前準備により多くは終わっています。ただ、敵性証人は事前準備で想定していないことを話し始めることもあるので、その際は臨機応変な対応が必要となります。その意味において弁護士には証人の「目の動き」を見定める余裕が必要なのでしょうね。