弱者ベース分野の衰退
私の頃の司法試験には基本4法(憲・民・刑・商)の他に訴訟法選択・法律選択・教養選択がありました。訴訟法選択は民事訴訟法と刑事訴訟法、法律選択は破産法・国際私法・労働法など、教養選択は心理学・会計学・社会政策などから1科目を選択するようになっていました。当時「金魂環」という本がヒットして丸金(富裕層)と丸ビ(貧困層)という対比が流行っていて、受験生の中で受験科目の丸金と丸ビがささやかれていました。通説は「丸金が民訴国際私法・会計学」「丸ビが刑訴・労働法・社会政策」でした。内田樹先生がブログでこう述べています。
国民国家解体の動きはもうだいぶ前から始まっていました。 医療・教育・行政・司法に対する「改革」の動きがそれです。これらの制度は「国民の生身の生活を守る」ためのものです。怪我をしたり・病気をしたり・老いたり・幼かったり・無知であったり、自分の力では自分を守ることができないほど貧しかったり・非力であったりする人をデフォルトとして、そのような人たちが自尊感情を持ち・文化的で快適な生活を営めるように気づかうための制度です。ですから、これらの制度は「弱者ベース」で設計されています。(略)でもこの20年ほどの「構造改革・規制緩和」の流れというのは、こういう国民国家が「弱者」のために担保してきた諸制度を「無駄づかい」で非効率的だと誹るものでした。できるだけ民営化して、それで金が儲かるシステムに設計し直せ、という要求がなされました。
グローバリズムの興隆はと「労働法・社会政策」(弱者べース)が衰退し全て「市場原理主義」に飲み込まれてゆく過程であると言えます。冷戦終結により対抗原理を失った資本主義が暴走し始めています。日本社会も2極分化し、その大多数は「丸ビ」になってゆくのでしょうか。