5者のコラム 「役者」Vol.146

資本収益率は経済成長率より大きい

映画「21世紀の資本」(ジャスティン・ペンパートン監督)を拝見した。面白かった。フランス人経済学者トマ・ピケテイが2014年に著した「21世紀の資本」の中心的主張は極めて単純である。「資本収益率は経済成長率よりも高い」ということだ。「資産(土地・株式・知的財産)の生み出す利益が経済全体の成長率より高い」という単純な命題は(長期的にみれば)「持てる者と持たざる者の格差が一貫して拡大していくこと」を帰結する。この単純な命題も経済学的に実証するのは結構大変である。主張を裏付けるデータを取りそろえて過去の膨大な議論の蓄積を消化する必要があるからだ。ピケテイは多大な労力を費やしてこれをクリアし、説得性の高い議論を展開した。結果、本書は世界で300万部も売れた。純粋な経済学書としては異常な数字である。
 この映画は上記著作のエッセンスを表現する。描かれるのは200年にわたる「資本」というものの怪物的な運動性(@マルクス)。もともと資本主義システムに「資本収益率が経済成長率より高い」属性が備わっているのならば経済格差は現在よりも拡大していたはずだ。「資本主義の怪物性を抑え込んでいたもの」に①宗教(キリスト教)②対抗原理(共産主義)③近代国家(領域主権)がある。資本主義は強欲から始まったのではなくプロテスタント的禁欲を倫理とした(ウェーバー)。共産主義への恐怖は「市場原理の修正」として福祉を要請した。国境を不可欠とする近代国家は資本の自由な移動を抑えた。が①事後の宗教意識の希薄化(強欲の肯定)②共産主義の崩壊(対抗原理の喪失)③グローバリズムの膨張(多国籍企業の増加・タックスヘイブン拡散)が「資本主義の暴走」を招いている。行く末は見えない。既に現れている「超・格差社会」を見せつけられると絶望的な気分になる。まだ「このような映画を観られること」に希望を見出すべきなのであろうか。