5者のコラム 「役者」Vol.87

芸術作品における「型」

美輪さんの舞台は素晴らしかった。「バラ色の人生」「愛の賛歌」で世界的に著名なシャンソン歌手エディット・ピアフの物語。苦難(劣悪な生育環境)栄光(歌手としての成功と恋人との出会い)絶望(恋人の急死)再生(再婚と死後の救済)という物語の進行にキリストを重ねあわせる。葬儀シーンで照らし出される十字架は明確にキリストのメタファーとなっていた。第2幕最後で美輪さんが魂をこめて歌う「愛の賛歌」(原語)は圧巻。多くの観客が涙を流していた。この演劇はエディット・ピアフを題材にした美輪さん自身の魂の遍歴なのだ。79歳の美輪さんが3時間半にも及ぶ演劇に出ずっぱりだった。死を意識しているであろう美輪さんの魂の一部を私たち観客は頂いたのである。美輪さんはアンコールで観客に対し合掌される。その姿は菩薩のように感じられた。
 優れた作品には型が存在します。この演劇も苦難・栄光・絶望・再生という型に沿っているからこそ観客を魅了するのです。昔から多くの芸術家が型を認識し継承してきました。型を壊すことに主眼がある芸術作品もありますが、それも「壊す対象としての型」を意識しているからこそ成功していると評価されるのです。法律実務にも長年の蓄積により継承されてきた一定の型があります。最初は合理性を感じられないものも多いのですが、実務を続けていくと自分も身につけるべきものとそうでないものの違いが何となく判ってきます。不合理な実務に縛られる必要はありませんが、先人が実践してきた型には何らかの合理性の存在が推定されます。先人が形成した型をいったん身につけた上で、それを自分の型に少しずつ修正(工夫)すること(@羽生名人)が大事なのだと思います。

学者

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