5者のコラム 「易者」Vol.145

弁護士も春風駘蕩でありたい

「将棋世界」中平邦彦「棋士たちの真情・谷川浩司王位棋王」の記述。

「春風駘蕩」。最近の谷川は色紙にこれを書く。「棋士というのはよく負ける職業なのです」と谷川は話している。連敗もあれば重要な一戦で痛い逆転負けを喫することもある。悔しく、惨めで落ち込むことも多い。しかし、大切なことはいかに早く気持ちを切り替えて悪いイメージを断つかである。終わったことは終わったこと。明日は明日の風が吹くとゆったり構えたい。それが次の勝利を呼ぶ。

17世名人の資格を有する谷川さんは私と同年齢のスター棋士です。その谷川さんが好まれている「春風駘蕩」(しゅんぷうたいとう)は辞書的説明では「春風が穏やかに吹いてのどかな様・転じて何事もなくのんびりとしている様・また人柄が温厚で穏やかなことを喩えていう」のだそうです。
 弁護士も「よく負ける職業」です。原告側のときは裁判官が審理を前に進めてくれずもどかしい思いをすることがあるのに、被告側のときは早々と敗訴的和解を勧告されて落ち込むことがあります。1審では勝訴したのに控訴されて痛い逆転敗訴(原判決取消)を喫することもあります。仕事の中で悔しくみじめで落ち込む気分に曝されることは日常茶飯事です。かような毎日の仕事を続ける中で大切なことは「いかに早く気持ちを切り替え悪いイメージを断つか」だろうと思われます。視点を変える。自分が苦しいときは他の人だって苦しい。終わったことは終わったこと。明日は明日の風が吹く。私は最も上手くいった事件や最も苦労した事件のファイルを大事に保存しています。悔しく・みじめで・落ち込んだときは暗い保管庫に行ってそれらのファイルを1人で眺めます。そうすると何故か気持ちが落ち着いて「次の仕事を頑張れる気力」が回復するのです。春風駘蕩。

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