5者のコラム 「5者」Vol.10

先生受難の時代

医療崩壊という言葉が聞かれます(小松秀樹「医療崩壊」朝日新聞社)。医療過誤訴訟の増加・マスコミによる医師叩き等により医師がやる気を無くし①地方で医師不在地域が増加し②リスクの高い科(産科・脳外科・心臓外科)や苦労の割に収入の少ない科(小児科)において担い手が激減し③公立病院中堅医師の開業と顧客獲得競争が顕著になっているとの指摘が為されています。
 斉藤環氏によれば問題は根源的なものです(毎日新聞・7月22日付「時代の風」)。

医療に完璧なサービスを期待するあまりあらゆるミスに不寛容になりつつある世論。日々の激務に疲れ切りマスコミや世論の医師叩きにうんざりしてニヒリステイックになっていく医師たち。(略)同じことは学校教育の現場でも起こっている。医師と教師は聖職などとも呼ばれ高度な倫理観と価値判断が期待される専門家集団だった。その専門性故のパターナリズムが批判され始めてから教師叩き・医師叩きが激しくなった。これとともに医療や教育現場では倫理と価値が問われなくなり代わって統計と判例が規範となりつつある。医師と患者の対立において相対的に患者は弱者に見える。しかし、いまや世論やマスコミを背景にした患者はしばしば医師の倫理を圧倒する「強者」たり得る。

「先生受難の時代」です。敬意を示されていた職業が倫理性のヴェールを剥ぎ取られ「反転した敬意たる蔑視」を浴びせられています。この先生叩きの中には「大衆の反逆」(@オルテガ)が混じっていないでしょうか?ルサンチマン(妬み)の標的となって誠意ある先生方が糾弾される現象は悲しいものです。客観的に被害が存在し専門職側に非(過失)があれば当然責任を負うべきですが、そうでない無茶な責任追及は弁護士が大衆のルサンチマンの拡散に手を貸すだけです。