5者のコラム 「医者」Vol.86

チーム連携における個の尊重

最近の医療現場ではチーム医療の重要性が強調されます。そのため個々人のワンマンプレーが戒められ全体の規律や調和が叫ばれることになります。たしかに医療におけるチームプレーの意味が軽視されてはならないでしょうが医療現場における個の重要性も忘れられてはならないように私は感じます。中井久夫先生はナースステーションの中に看護師が1人になれる部屋を確保したそうです。特に師長は1人になる時間が必要だと言っておられます。患者さんにも外から監視されずにいられる部屋を作られました。「患者の嫌人権を認めているらしい」という噂が立ったときにも否定しなかったそうです。ひとときの「引きこもり」は自分を蘇えらせる力があるとも指摘されています(中井「こんなとき私はどうしてきたか」医学書院107頁)。
 弁護士事務所は小さい組織です。一般的個人事務所は弁護士1・2名に事務職員が2・3名程度です。そんな小さい組織ではチーム連携が図れなければ事務所全体の能力をあげることはできません。各人がバラバラなことをやっていては駄目です。ただし法律実務は神経をすり減らす仕事でもあります。弁護士も事務職員も仕事中「ガラスの仮面」を付けていますから途中で仮面を少し外す心の余裕が必要です。私も(中井先生に習い)事務職員に勤務中1人になれる時間とスペースを確保しています。昼食時間は事務職員1名ごとに分けて時間をとり、その間は職務を外れます。仕事場から隔離されるプライベート空間を作り、外部的視線を意識せずに1人の時間を回復できるようにしています。自分に関しても、昼食は(特段の事情が無い限り)事務所の外で1人で食べます。文庫新書等の書籍を持参し、食事の時間を1人でまったりと過ごすのが日課となっています。こういった1人の時間は対人専門職の者が個としての自分を蘇えらせるため引きこもる不可欠の時間なのです。