5者のコラム 「学者」Vol.48

学生ローンと修習生ローン

内田樹教授はブログでこう述べます。

現在の奨学金は本質的に「学生ローン」であり、その根本にあるのは「教育の受益者は学生自身(および保護者たち)である」という信憑である。(略)教育の受益者は本人ではない。直接的に教育から利益を引き出すのは学校制度を有している社会集団全体である。共同体の存続のためには、成員たちを知性的・情緒的にある成熟レベルに導く制度が存在しなければならない。(略)だから子どもたちを教育する。いくら嫌がっても教育する。文字が読めない・四則の計算ができない・外国語がわからない・集団行動ができない・規則に従うことができない・ただ自分の欲望に従って自己利益の追求だけのために行動するような人間たちが社会の一定数を越えたら、その社会集団は崩壊する。だから「義務教育」なのだ。教育のコストは自己負担であるべきだというロジックはそのような世界においては合理的である。私が言いたいのは「教育のコストは自己負担であるべきだ」というロジックが合理的であるような社会は、共同体として「滅びの道」に向かう他ないということである。

司法修習生の給費制を廃止し「修習生ローン」にせよという主張は「司法修習の受益者は修習生自身である」という信憑にもとづいています。が、司法修習の受益者は本人ではありません。司法修習から利益を引き出すのは司法制度を有する社会集団全体です。司法を存続させるためには法曹全員を知性的かつ情緒的に良き法曹として成熟に導く制度が存在しなければなりません。それは司法が生き延びるため必須のものです。法的言語が読めない・法律家のルールに従うことができない・自己利益だけを追求する法曹が一定数を越えたら司法制度は「滅びの道」に向かうのです。

5者

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