5者のコラム 「芸者」Vol.104

関係性の継続を図る物証

畠山箕山は「色道大境」において遊女の「手練手管」を6つ挙げています。
  

1放爪(女が爪を切って男に送ること・生爪をはがすことも)
 2誓紙(熊野の料紙をもちいた起請文・カラスが描かれている)
 3断髪(髪を切って男に送る・男に切らせるのが極意)
 4入墨(男の名前に「命」を加えて女の肌に彫り込む)
 5切指(指を切って相手に送る・実際に切るかは関係性による)
 6貴肉(腕などを刀で切る・パフォーマンスに過ぎないことも)

これら「手練手管」には遊女が自己の存在を客の脳裏に焼き付ける技が込められています。印象的なのは「自分を象徴するモノ」を相手に送るという行為です。客にとって遊郭の一夜は「夢物語」の性格を持つ非現実的な時間です。が、送られたモノは純然たる物体です。それは「日常生活」に戻った顧客に遊女との関係性を示す物証として長く長く効果を発揮したことでしょう。
 法律相談で弁護士とクライアントが交わす時間は短いものです。難しい法律用語が交わされる非日常的時間です。そのとき交わされた言葉の意味を正確に記憶し自分の法律問題に適切に使える人は多くありません。ゆえに弁護士は非現実的時間を日常生活との関連性をもつ現実的時間に変換するために自分との関係性を示す物証を相談者に渡すことを試みるべきだと私は思います。相談センターであれば継続用紙を、市役所等であれば(許されている場合)名刺を渡しましょう。相談者と弁護士との関係性の継続を図るための良い物証になることでしょう。ただし自分を印象付けたいからといって爪・髪・指・腕などを切って相談者に送らないように(笑)。