5者のコラム 「役者」Vol.108

虚構と現実の交錯

2016年9月11日に映画「シン・ゴジラ」と「君の名は。」を拝見しました。前評判を裏切らない素晴らしい作品でしたので、フェイスブック上に次の感想文をあげました。

15年前のこの日の夜、私はテレビの前に釘付けになった。実況中継されているNYの飛行機ビル衝突「事故」の映像の中で別の飛行機がビルに衝突する瞬間の映像が映し出された。何が起こったのか?判らないまま当惑している私の横で未だ2才だった次男はこう呟いた。「怪獣は?」。映像の中の虚構と現実が私の中で交錯した瞬間だった。それはエヴァンゲリオン(良い知らせ・福音)ではなく、アポカリプス(黙示録)の現実化であった。国内でも災害が相次いだ。東日本大震災と原発事故は社会に暗い影を落とした。それから<政治の物語化>と<物語の政治化>が同時進行した。怪獣は物語の中で「放射能への恐怖」を描くメタファーとなり、男女が交錯する物語は「人が住めなくなった町」を舞台としている。不条理な現代日本社会において「自己」とは「事故」の現象形態なのかもしれない。

「シン・ゴジラ」は庵野秀明監督が提案した<特撮博物館>のため制作した「巨神兵・東京に現る」とヒット作品「エヴァンゲリオン」を背景に製作されています。新海誠監督「君の名は。」には宮崎アニメに対するオマージュが濃厚に感じられます。現代社会の中で庶民は<放射能の恐怖>と<政治機能不全への怒り>を感じているのでしょうし<人が住めなくなった町を犠牲に繁栄している東京>に不安を感じているのかもしれません。「シン・ゴジラ」と「君の名は。」アポカリプス的な日本社会において多種多様な解釈が可能な素晴らしい作品です。単なる「怪獣映画」・「ライトノベル・ファンタジー」などとあなどってはいけません。