法律コラム Vol.127

清算人解任と職務代行者

会社の清算に当たっては迅速かつ公正な職務遂行が求められます。が一部事案で清算人が私腹を肥やすために不当な行動を取ることが見受けられます。以下に挙げるのは監督裁判所に対して清算人の解任と職務代行者の選任を求めた申請書の抜粋です。(平成13年:大脇弁護士との共同)

第1 当事者
  *会社(以下「会社」という)は、資本金を*円とし、不動産・動産の所有、賃貸管理を主たる目的として*年*月*日に設立された有限会社である。
  会社の出資持ち分は*口であり各保有口数は次のとおりである(略)。
  申請人らはいずれも*会社の社員である。
  被申請人らはいずれも会社の清算人である。
  会社は平成8年6月1日「最低資本金制度」の施行により解散したものとみなされた。
第2 被申請人らの行為
 1 被申請人らは、みなし解散の後、自分らが支配する「*会社」に対し*会社の業務を委託し、*年*月*日から同*年*月*日までの間に*万円もの委託管理料を支払っている。清算人として職務を行っていないのに自分らに多額の給与を支払っている。その額は*年*月から*年*月までで*万円にも上る。債権者への弁済すら無視した、かかる行為は違法である。申請人は既に被申請人らに対し「清算人の責任追及の訴え」を提起しており御庁に係属している。
 2 会社は設立以来順調に利益の蓄積を進め、*年*月*日時点の貸借対照表で資産合計*円・負債合計*円で純資産*円を計上していた。被申請人らは*年*月*日に開催した社員総会で自分ら退任役員らに対し総額*万円もの高額な退職慰労金を支給する旨の議案を提出し、これに賛成して多数決で決議を成立させた。その上で、会社をして同金員の支給をなさしめている。申請人はこの決議に関し「決議無効確認請求訴訟」を提起しており御庁に係属している。
 3 しかも被申請人らは就任の日から2ヶ月以内にしなければならない公告等の手続を全く怠っており(有限会社法75条、商法421条)代表清算人*氏死亡後何らの手続もしていない。これらは清算人としての著しい職務懈怠である(有限会社法75条、商法254条の3)。上記手続を行わないのは違法行為を隠蔽するための「故意」にもとづく。このことは債権者からの*万円の敷金返還請求に対し(多額の金員を自分ら清算人が取得しているにもかかわらず)「清算のための資産・資金はありません」と開き直った態度を示したことに端的に現れている。
第3 法的評価
 1 一般に会社の清算は裁判所の監督の下に行われる(非訟事件手続法136条の2、135条の25)。監督を実効あらしめるために、法は清算人に対して就職の日から2週間以内の解散の事由と年月日・清算人の氏名住所等の裁判所への届出を定めるとともに、就職後遅滞なく会社財産の現況を調査し、財産目録及び貸借対照表を作成し、総会に提出して承認を求めた後、裁判所に提出するよう定めている(有限会社法75条・商法418条・同419条2項)。
 2 有限会社においては「重要なる事由」があるときは裁判所は社員の請求により清算人を解任することが出来る(有限会社法74条2項)。同条に言う「重要なる事由」があるときとは清算人が清算に関する職務を懈怠し、あるいは清算事務の公正を欠き、会社・社員・株主及び債権者の利益を害し、その他清算の遂行に支障を生ずる重大な事情がある場合である(「注解非訟事件手続法」改訂版648頁)。本件の場合、被申請人*・同*は就職の日から2週間以内に行うべき裁判所への届出・遅滞なく行うべき会社財産の現況調査・財産目録及び貸借対照表の作成・総会承認を求めた後の裁判所への提出・公告等の重要な手続を全く怠り、しかも代表清算人*氏死亡後も何らの手続もしていない。本件において「重要なる事由」が認められることは明白である。

* 裁判所は清算人2名を解任し職務代行者(某弁護士)を選任しました。その職務代行者により公正な清算業務が速やかに遂行されて本件手続は終了しました。
* なお、本文で触れた「清算人責任追及訴訟」と「決議無効確認請求訴訟」はいずれも請求が認容されています(確定・福岡地裁久留米支部)。

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