5者のコラム 「芸者」Vol.76

自分の立ち位置の認識

 酒井順子「その人、独身?」(講談社)の記述。

恥ずかしながら女子側の幹事は私。合コン幹事というのは自分がモテたいが故に自分よりも容姿が優れた同姓を連れてこないことがままあるようですが、負け犬たるもの、そんな姑息な手段は使いません。「自分が幹事であるからには、皆様に”来て良かった”と思っていただかなくては」という奉仕精神のもと、自分よりも明らかに美人のスチュワーデスおよびOLをキャスティングしたのです。(中略)普段の生活においては、仕事で会う人にしてもプライベートに会う人にしても、相手は一応この私という人間に興味を示す、もしくは示すふりをしてくれるわけです。しかし合コンの男性メンバーは私に興味を示す義理などないので、自分の興味がある女性だけを素直に注視して話しかける。この「選ばれていない感」は高校時代の合コンと全く同じものだったのでした。(中略)「選ばれていない自分」を感じつつ私は「こういう経験もたまには必要なのだ」と、しみじみ自分に言い聞かせたのでした。

酒井氏は合コンを自分の立ち位置と価値とを自覚するための社会の縮図的な場と冷徹に描写しています。私も学生時代の合コンに馴染めなかったのですが、それは即席的恋愛市場における自分の立ち位置と価値を巡る競争に入り込めなかったからだと思います。合コンの冷徹な認識に至るのは合コンで良い思いをしていない人に共通するのでしょう(笑)。弁護士には依頼者を多く獲得することを市場原理的に考え、市場における自分の立ち位置と価値を上昇させることに膨大なエネルギーを費やしている方がいますが、私は興味がありません。私は依頼者との出会いは「ご縁」によるものと考えます。自力ではなく他力によるものと感じています。古い世代の人間なのです。それでも、この仕事を何とか20年やってこれたので、私は「これで良いのだ」と考えております。

易者

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