5者のコラム 「医者」Vol.130

職業訓練校としての色彩

鳥集徹「医学部」(文春新書)に以下の記述があります。
 

まず理解しておくべきなのは医学部が他学部に比べ「職業訓練校」としての色合いが非常に強いということだ。例えば東大や早稲田大の法学部を出たからといってみんなが官僚や弁護士になるわけではない。一般企業に入って法務職だけでなく営業職などに就く人も多い。理工学部出身者の多くは研究職やエンジニアになるのだろうが、金融やテレビ局に就職する人もいる(略)。が医学部は違う。ここは医師になるための勉強しかしない。そして将来はほぼ間違いなく医師になる。それだけ医学部での勉強は医師という職業に直結しているのだ。

日本の大学の法学部に職業訓練校としての意味はありません。官僚を養成することを主たる目標に創始された東大法学部と、そのカリキュラムを真似してつくられた他大法学部の講義内容は一般教養的なものです(法律実務に直結したものではない)。「*になるための勉強しかしない・そして将来はほぼ間違いなく*になる」という意味で、実務法曹を養成している機関は司法研修所しかありません。司法研修所は司法試験に合格している(法律について体系的理解が完了している)者に対し訴訟における事実認定と法適用の実際的技術をたたきこむ国家機関です。修習生は座学ではなく現場に臨場して生のやりとりを見聞します。事案に即して書面類を作成します。先輩法曹から真っ赤な添削を受け観念的法律知識が実務に直結する技術に変換していきます。この機能を現在のロースクールは代替できません。司法改革を主導した方々は、司法研修所に変わるものとしての「法曹になるための勉強しかしない・そして将来はほぼ間違いなく法曹になる」教育機関としての「日本版ロースクール」を夢想していました。しかし出来上がったものは似て非なるモノであったようです。