5者のコラム 「易者」Vol.92

職人松田さんの思い出

父の仕事の手伝いをしてくれた職人さんがいました。その思い出を紹介。

1 昔、私の実家の便所は綺麗ではなかった。職人の松田さんに話したら「よかやんね・紙で拭くとやけん・うちの便所は縄ばい」と言われた。私は驚愕した。図書館で調べてみたところ世界の民族には草で拭くところ・左手で拭くところ等、多種多様に存在することが判った(縄で拭くところも実在する)。私は気を取り直した。しばらくして松田さんの家に遊びに行った。柔らかいペーパーが備えられた美しいトイレであった。
2 昔、朝起きたら隣に巨大な蛇が寝ていた。「ぎょえー」と叫んで下に降りていくと松田さんが来ていた。「松田さん、蛇が寝とったばい」と訴えたら松田さんは部屋に来てくれた。松田さんは「こりゃ家の主ばい・ネズミば食うとたい・良か蛇ばい」と言って、大事そうに抱え蛇を天井裏に戻してしまった。以後、寝るときには「家の主」のことが気になったが、いつのまにか忘れてしまった。牧歌的な頃であった。

松田さんは気遣いとユーモアに溢れた職人さんでした。今頃になって私は自分が松田さんから受けていた多大な影響を感じています。私は自分を卑下した優しいウソを付くことによって相手の悩みを相対化させることが出来るだろうか?恐れる対象の意義を教えることによって恐怖を忘れさせることが出来るのだろうか?弁護士になった今、当時のことを思い出すと涙が溢れます。

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