5者のコラム 「役者」Vol.80

正義と悪の相対性

「ウルトラマン」第35話「怪獣墓場」(実相寺昭雄監督)はアラシ・イデ両隊員が宇宙の「ウルトラゾーン」と呼ばれる一帯で過去に戦ってきた怪獣たちの亡霊を発見するところから始まる。「やつらはここまでウルトラマンに放り出されて永遠にウルトラゾーンを漂っているんだ」(イデ)「まるで怪獣墓場だな、ここは」(アラシ)。舞台は科特隊基地内部に移る。「話を聞いてみると可哀想ね。姿形があたしたちと違い力がありすぎるというだけで宇宙へ追放されてしまったのだから」(フジ)「そういえば随分やっつけたなあ・ウルトラマンの力を借りて」(ムラマツ)「やつらはウルトラマンに力いっぱい放り出されて無重力地帯までスッ飛んでいき、永久に宇宙の孤児となっているんですよ」(アラシ)「キャップ、どうです?怪獣供養ってのをやってみませんか?」(イデ) その場にいたたまれなくなったハヤタは外へ飛び出す。そして「許してくれ。地球の平和のため、やむなくお前たちと戦ったのだ。俺を許してくれ」(ハヤタ) ナレーションがダメ押し。「心ならずも葬った数々の怪獣たちに対しウルトラマンはおそらく心の中で詫びていたに違いない」 科特隊は「怪獣供養」を行う。が、その後現れた怪獣シーボーズに対して地球人は無慈悲な攻撃。監督は怪獣に対する一方的加害シーンを1分間も継続する。その後ウルトラマンも登場するが、対決状況は静止画像だ。最後ウルトラマンはシーボーズを殺さずロケットにくくりつけて宇宙に返す。
 実相寺昭雄監督は「怪獣墓場」を「ウルトラマン=正義、怪獣=悪」の2項対立図式を超えた枠組みで作成しました。それは正義と悪の相対性という敗戦国特有の情念にもとづくものだったのでありましょう(アメリカでこんな深い内容の作品が受けるとは到底思われません)。我々弁護士は、脚本家佐々木守氏と実相寺昭雄監督に学びながら単純な勧善懲悪図式を乗り越える必要があります。