5者のコラム 「易者」Vol.81

本の題名にかける呪い

ある日の私のフェイスブックへの投稿です。

「何故**なのか」という題名の本が増えたのは最近のことだ。私はこの類の題名が好きではない。呪いが入っていると感じられるからだ。この題名は少なくとも次の4つの主張を含んでいる。①**は事実である ②**の存在には理由がある ③あなた(読者)はその理由を知りたがっている ④私(著者)はその理由を知っている。実際には①が事実であるか否か自体が疑わしいものも多い。読者に無意識に呪いをかける構造の題名に私は良い気持ちがしない。

福岡の世良洋子弁護士から以下のコメントを頂きました。

犯罪被害者団体「あすの会」を取材した元NHKディレクター東大作さんの社会派ノンフィクション「犯罪被害者の声が聞こえますか」(新潮文庫)のことを思い出しましたので紹介させてください。この本はNHKスペシャルで放送された内容を書籍化したもので、原題は「犯罪被害者はなぜ救われないのか」(2000年10月放送)「犯罪被害者をどう守るのか」(2002年10月放送)だったのです。文庫本の解説で作家重松清さんが言います。「(改題によって)ボクサーが接近戦を挑んで距離をグッと詰めるように・主題を手元に引き寄せた。問いかけがこちらに迫ってくる。「守る」「救う」は国や政府など大きなものに責任転嫁できるが「聞こえる」「聞こえない」はあくまでも僕たちが個人として責任を負わなければならないものなのだから。」と。この本の内容は、先生ご指摘の①②は真摯な取材によって裏付けられているのですが改題後は原題に漂う③④の胡散臭さ(呪い?)を払底して読者に率直な問題提起をすることに成功している例ではないかと思います。

題名は本の性格を決定付けます。出版社が売れる題名を付けたいのは判りますが、呪いの入った題名は良くありません。出版社には理性的な題名の本を希望します。

芸者

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