5者のコラム 「5者」Vol.78

デタッチメントとコミットメント

内田樹先生のブログの記述から。

メディアは「ゆらいだ」ものであるために「デタッチメント」と「コミットメント」を同時的に果たすことを求められる。「デタッチメント」というのは、どれほど心乱れる出来事であっても、そこから一定の距離をとり・冷静で・科学者的なまなざしで、それが何であるのか・なぜ起きたのか・どう対処すればよいのかについて徹底的に知性的に語る構えのことである。「コミットメント」はその逆である。出来事に心乱され・距離感を見失い・他者の苦しみや悲しみや喜びや怒りに共感し・当事者として困惑し・うろたえ・絶望し・すがるように希望を語る構えのことである。この2つの作業を同時的に果たしうる主体だけが混沌としたこの世界の成り立ちを(多少とでも)明晰な語法で明らかにし、そこでの人間たちのふるまい方について(多少とでも)倫理的な指示を為すことができる。

弁護士業務における「デタッチメント」とは受任した事件から一定の距離をとり、冷静で・科学者的なまなざしで、それが何であるか・なぜ起きたのか・どう対処すればよいかについて徹底的に知性的に語る構えのことです。要件事実に徹した立場と翻訳することも出来ましょう。これに対して「コミットメント」はその逆です。受任した事件の悲惨さに乱され、距離感を見失い、他者(依頼者と相手方)の苦しみや悲しみ・喜び・怒りに共感し、代理人としても困惑し・うろたえ・絶望し・すがるように希望を語る構えのことです。この2つの役割を同時に果たすのは弁護士にとって極めて困難な技です。しかしながらかかる困難な作業を同時に行い得る、しなやかな感性の弁護士だけが、混沌とした法律世界の成り立ちを明晰な語法で明らかにし、そこでの「人間のふるまい方」について多少なりとも「倫理的な指示」を為すことが出来るのだと私には感じられます。