5者のコラム 「芸者」Vol.124

広告の世界と弁護士の世界

 天野祐吉「私説・広告5千年史」(NHK)に次の記述。

広告の世界は嘘八百の世界と隣り合わせになっています。で、その向い側には芸術の世界と芸能の世界とかが続いています。(略)広告は、たぶん人類の誕生と共に生まれたと僕は思っていますが、それ以来ずっと広告の世界は嘘八百の世界と表裏一体になって歩んできた。だからこそ広告はすぐれて人間的なコミュニケーションになっていると僕は思っています。なぜって、嘘というのは人類が発明したモノの中で一番人間的なモノだと言っていい。「嘘を付くとエンマ様に舌を抜かれますよ」なんて子どもにヌケヌケと嘘を付いているお母さんの姿をちょっと想像してみれば、そのことの意味がよく判るはずです。

 弁護士界の規範(弁護士職務基本規定)は次のように真実と品位を中核とします。
第5条 弁護士は真実を尊重し、信義に従い誠実かつ公正に職務を行うものとする。
第6条 弁護士は名誉を重んじ信用を維持するとともに廉潔を保持し品位を高めるように努める。
 広告の世界と弁護士の世界は基本的に相容れない。嘘八百の世界と隣り合わせの広告という行為が弁護士業に馴染むわけがない。長年にわたって弁護士法が広告を禁止していたのはかかる理由にもとづくものでした。が司法改革の一環として広告が解禁されたので派手なテレビCMを打つ事務所すら出現しています。法律事務所が「虚偽又は誤導」の情報提供をしていないか「品位を損なう」広告をしていないと言い得るかは微妙なもの。近時、大々的な広告をしていた某法律事務所が消費者庁からの処分を受け弁護士会の懲戒処分も受けました。嘘八百である「広告の世界」と真実品位を尊重する「弁護士の世界」の規範が矛盾抵触する場合は後者を優先しなければなりません。

易者

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