5者のコラム 「学者」Vol.20

奨励会とロースクール

プロ棋士になるには日本将棋連盟の奨励会に入り四段にならなければなりません。片山良三氏はこう述べます(「波乱盤上・将棋界の光と影」あすか書房182頁)。

ほとんどの少年は入会して1月もしないうちに自分が抱いていた大いなる「錯覚」に気が付いてしまう。無邪気に「目標は名人」などと言っていたのに日を追うごとに恥ずかしくなってくる。名人なんておこがましくて口に出来なくなってくるのだ。強気な子供でも5年後・10年後のオトナになった自分を想像して少しグッときてしまうのが奨励会入会後半年ぐらいの時期だろうか。それでも、もう後戻りはできないぐらいのことは子供でもわかった。

本年6月の棋聖戦第1局を実況中継した梅田望夫氏はブログでこう述べています。

対局室のおそろしい緊迫感のなかで僕が強く思ったのは記録係田島尉三段の立派な姿だった。記録・秒読みの仕事を完璧にこなし、一度も正座を崩さない。盤面を見つめて両対局者と一緒に考え続けていた。それで佐藤さんとコーヒーを飲んでいた傍らにいた田島君に向かって僕はこう言った「もう少し時間があったら貴方のことを書きたかったんだけど力尽きてしまって。記録係って本当に大変な仕事ですね」そうしたら田島君が僕に何か返事をする前に間髪入れず佐藤さんが真顔でこう言った「修行ですから。あんなことも出来ないようではその先にプロとしてやっていくことはできませんから。プロの仕事はもっと大変ですから。」佐藤棋聖は硬派の厳しい人なのだと、改めて思ったのだった。

司法試験は法律家の奨励会です。ロースクール生に奨励会員のような厳しさが欠けているのなら、この国の法曹養成制度改革は失敗であったと私は考えます。