5者のコラム 「易者」Vol.6

呪術的な内容証明郵便

太古の昔から易者(呪術者)は独特の内容と形式による呪いの言葉を使用してきました。古代において政治と占い呪術は不可分であり卑弥呼も鬼道の女王として君臨していたと考えられています。最近でも有名政治家と呪術者の深いつながりがスキャンダルになっています。古代から現代に至るまで「人を動かす」という営み(政治)の根元にあるものは理性的なものではなく呪術的なものであったようです。庶民もしばしば呪いの言葉を使っています。自分が相手に対して優位に立とうと思う時、人は理性ではなく呪術に訴えるほうが勝ることを本能的に察知しているのだと思われます。

「悪いことが起きなければいいんだけど」「それは世間が許しませんよ」「胸に手を当ててよく考えてごらんなさい」「あなたも人間でしょう?」

私は相手から出された多数の内容証明を読んでいます。その中には呪いの言葉がちりばめられたものが多数存在します。「われに従え・しからずば災いが起きる」という典型的な呪いの言葉です。本来、内容証明とは自分がいかなる内容の手紙を誰に・いつ出したか、それがいつ相手に到達したか、を公的に証明して貰うだけの郵便物です。しかし実務的には相手方に対し相当の呪術的効果を発揮します。何故、内容証明にかかる効果が生まれるのか?次のような説明があります(多比羅誠「内容証明の書き方と活用法」自由国民社、11頁以下)。

①普通の手紙と異なる用紙と形式で書かれるため今までの請求とは違う印象を与える。②書留郵便で配達され、いかにも重要な文書のように感じさせる。③郵便局長の証明印が押されているため、何か公的なものを感じさせる。④次には何か法的な手続きをやってくるなという「不気味な予感」を抱かせる。

職務上、内容証明を多数出しています。初期の頃は私も無意識に呪いの言葉を多く使用しており、訴訟で相手の証拠として提示されて恥ずかしい思いをしたことが過去にありました。以後は「呪いの言葉」を極力控えるように努力しているつもりです。

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