5者のコラム 「5者」Vol.116

叱ってくれる師匠への尊敬

辻井啓作氏は「独立開業マニュアル」(岩波アクテイブ新書)でこう述べます。 

独立したら誰も叱ってくれへんで。そんなんしたかて相手に嫌われこそすれ儲かるわけやないからな。ワシかて他人のこと、おいそれとよう叱らんわ。せやから叱ってくれたり相談に乗ってくれたり時には進むべき道を教えてくれる人と出会えることはホンマに幸せなんや。もちろん相手のことが尊敬できへんのやったら、それは師匠やない。せやけど尊敬できて厳しいという人は絶対に逃したらアカンで。逃さんということは自分が逃げへんということや。そんな人は言うこときついやろから逃げたなるときもあるやろうけど食らいつくんや。「師匠」と呼べる人は意識して探しても知り合えるかどうか判らん。しかもそのつきあいは自分のメリットになっても相手には何のメリットもない付き合いや。師匠には尊敬の念をもたなあかんで。それが現段階で相手に返せる唯一のもんやからな。ええか尊敬やで。次に話すけど凄い人も自分自身の成長に連れてだんだん凄くなくなってくる。一時は「師匠」と尊敬した人も自分が成長するとそうでもないと思うときが来るかもしれん。せやけど一時でも師匠として世話になった人には感謝の気持ちを忘れたらあかんで。(53頁)

新人弁護士にとって師匠と呼べる先輩をもてることは幸福なこと。先輩から観れば新人弁護士は即戦力ではありません。ヒヨコに過ぎません。弱い状態のヒヨコを厳しい世界から守り・実務のイロハを教え・ときには叱り・ときには賞めて・給与まで支払って下さる。実務を始めた頃のイソ弁という制度は有り難いものでした。師匠が(助役就任で)いなくなり不本意に独立させられたとき、私は多くの善意あふれる先輩に気遣っていただけました。尊敬でき・厳しい方々でした。何のメリットもないのに私の成長を手助けして頂いたのです。なので私は師匠と先輩に尊敬心を欠かしません。それが現段階で相手に返せる唯一のものだからです。