5者のコラム 「医者」Vol.25

冷たい・たらい回し?

医師・斉藤環氏は以下のとおり述べます(毎日新聞「時代の風」08年11月23日)。

「たらい回し」「受け入れ拒否」「診療拒否」といった誤った言葉がいまだに流通していることに驚かされる(正しくは「受け入れ不能」)。こうした運用を改めずにいるマスコミは、はたして政治家の失言を嗤えるだろうか。これらの言葉がいかに先入観と偏見に満ちたものであるかは一線で働く医師に丁寧な取材を繰り返せば容易にわかることだ。こころみに医師のブログや掲示板をのぞいてみるだけでよい。労働基準法など無視が当たり前の過酷な労働環境で献身的に働く無名の医師たちの姿がそこにある。(中略)そう倫理とは決して無償ではない。それは「人生の歓び」と「人々からの尊敬」とひきかえに守られるべきものなのだ。

「たらい回し」「診療拒否」といった言葉が医師をいかに傷つけたか想像するに余りあります。
 弁護士に対しても「冷たい」「たらい回し」など苦情が出されることがあります。が苦情の中には弁護士業務に対する誤解が含まれています。相談者がクレーマーであることも珍しくありません。記者がこれを鵜呑みすることには躊躇を感じてほしい。「冷たい」とは相談者に対して見識ある言葉を発したこと「たらい回しされた」とは法的に不可能と告げる際に念のためセカンドオピニオンを勧めたことを意味するのかもしれません。ある職業に対する言葉はその職業が置かれている状況をよく理解して使う必要があります。もちろん同じことは記者にも妥当します。記者の倫理だって無償ではない。それは「市民からの尊敬」と引き換えに守られるもの。記者に対する先入観と偏見は記者のニヒリズムを惹起し逆に報道の質を下げます。報道は民主制社会に不可欠の礎です。正当な取材と誠実な執筆を行う記者に対する尊敬こそが記者の倫理を育むことになるのでしょう。