5者のコラム 「学者」Vol.99

ダメな手が判ること

羽生さんが将棋が強くなるヒントを語っています。-羽生さんは常識にとらわれない新しい手をたくさん生み出してこられました。経験というのは、そういった新しい発想の邪魔になることもあるのかと思ったのですが。(羽生)もちろんそうです。足かせになるケースもいっぱいあります。だから経験をそのまま当てはめることはしません。一工夫して具体的に実戦に活かせるものに変えていく。例えば対局で経験したことのある局面を類似した局面での判断に利用したり、考え方だけを抽出してみたりするんです。あとは「こうやったらうまくいく」ではなく「こうやったらダメだった」ということを覚えておきます。そうすれば回り道をしなくてすむからです。-ダメだった局面のほうが大事なのですか。(羽生)私は将棋が強くなるために1番大事なことは「ダメな手が判ること」だと思います。-おお。1番がそれですか! (羽生)これはダメな選択肢・やっちゃいけない手だということが瞬間的に判るかどうか。これはすごく大事なことです。何故かというと、いくらたくさんの手が読めても、その中にダメな手がひとつ入っていると全てが台なしになってしまうからです。 -なるほど。ダメな手が混じるとその先が全て意味ないものになってしまうのか。(羽生)はい。でもダメな手を瞬時に排除することができれば効率よく深堀りして読み進めることができます。
 弁護士業務にも上述した羽生さんの言葉は妥当します。漫然と同じことを繰り返すのではなく経験から得た教訓を次の実戦に活かせるように工夫していく。こうやったらダメだったという負の経験を次に生かしていく。これらの努力が法曹実務家の達人に近づいてゆく秘訣なのでしょうね。