法律コラム Vol.111

将来の給付の訴え

民事訴訟は過去の事実に法をあてはめて現在の権利義務を認識するものですから、原則として既に発生している請求権の給付を求める形式になります。が、未だ履行すべき状態にないのに給付判決を取得することを求める訴訟類型があり「将来の給付の訴え」と呼ばれています。今般この類型の訴訟を被告側で遂行する事案があったので御紹介します。
 事案は子2名分の養育費に関する合意が存在したものの高すぎるので当職が内容証明により減額の意思表示をした上で家裁に養育費減額の審判を申し立てたのに対して権利者が過去分のみならず将来の差額分の支払を求め地裁に訴えたものです。家庭裁判所において当方主張の「月額*万円が相当」という審判が為されたのを受け原告が「請求の趣旨」を変更したことに対する答弁です。

第1 本案前の答弁
  本件訴えを却下する
  との裁判を求める。

第2 答弁の理由

  1. 本件については当初より①本件訴えは訴訟要件を満たさない不適法なものであるから全体を却下すべきである②仮に過去分については適法であっても将来分は不適法であるから却下すべきである、と答弁していた(令和*年*月*日答弁書)。
  2. 今般、家庭裁判所において令和*年*月*日に審判が為された。事件本人らの令和*年*月以降分の養育費は、各事件本人について月額*万円と定められた。この審判を原告は争わない意向である。他方、被告は上記金額を令和*年*月から現在に至るまで完全に履行しており、過去の未履行分は存在しない。
  3. 将来の給付の訴えは未だ履行すべき状態にないのに給付判決を取得しておこうという訴えであるから「予め給付判決を得ておく必要がある場合」にのみ許される。どんな場合に許されるかは義務者の態度や給付義務の性質等を考慮して個別に判断しなければならない。義務者が現在既に義務の存在・履行期・条件等を争っている場合には給付義務の内容にかかわらず、この訴えの必要を認めるべきであるとされている(新堂幸司「新民事訴訟法第4版」弘文堂256頁)。
  4. これを本件についてみるに事件本人らに関する令和*年*月以降分の養育費の額を月額*万円と定めた審判を原告は争わない。他方で、被告は上記金額を令和*年*月から現在に至るまで履行している。未履行分は存在しない。被告は審判で変更を受けない限りは上記金額をこれからも支払っていく所存である。したがって本件訴は「将来の給付の訴えが適法となる要件を満たさない事案」ということになる。
  5. よって本件訴えは訴訟要件を満たさないので却下すべきである。

この答弁書を受けて原告は訴えを取り下げました。当方もこれに同意したので、本件訴訟は終了しました。家庭裁判所における養育費減額の審判は双方ともに不服申立をしなかったので確定しています。円満に終わることが出来て良かったです。

前の記事

特別縁故者への財産分与

次の記事

名義預金の扱い