法律コラム Vol.97

公益目的による相続財産からの寄付

故人の遺産は基本的に遺言(本人の意思)によって処分されます。遺言がない場合には相続人による遺産分割協議によって帰属が決まることとなります。遺言において公的団体等へ寄付するよう明記されていれば遺言執行者の手によって寄付を実行することが出来ますが、問題は(遺言制度を知っていれば公的団体に寄付を考えていたであろう故人が)遺言を残していない場合です。民法を単に適用すれば法定相続分で分割することになりますけれども、それが故人の遺志に沿うものであるか否か問題になり得ます。以下に挙げるのは相続人の一部からの申出を受け当職が他の相続人に対して寄付に関する意見照会をした文です(抜粋)。

私は*氏の依頼により*様(*年*月*日生、*年*月*日死)の相続関係事務を受任している弁護士です。故人は相当の遺産を残して死亡されました(約*円、ただし現在調査中)が、同人には配偶者も子もないため、相続人となるのは兄弟及びその子らとなります。貴方もその中の1人です。今回お手紙を出しましたのは、遺族(*氏ら)から生前の*様の遺志を酌んだ次のような寄付をしたらどうかと声が上がっており、当職としても故*様のご遺志を尊重したいと考えるからです。提案の趣旨は以下のとおりです。(中略)*様は若い頃に*会が運営する診療所で看護師として勤務しておられました。高齢となられてからも*会に対する篤い尊敬の念を有しておられました。そこで*様の意向を酌まれた遺族から*会への御寄付が提案されています。具体的には*様のご遺志を酌んで*円(遺産の約半額)を考えています。残った額に関して(手続費用を控除させて頂いた上で)法律に従った分割を実施したいと考えています。当職は相続人の皆様の意思確認が重要だと考えています。そこで別紙により皆様の御意見を回答頂ければ幸いでございます。(以下、略)

* この呼びかけに対し相続人全員が快く賛成してくださいましたので上記寄付を実行することが出来ました。残額から費用を控除の上、各人への分配をして手続は終了しました。*会は肢体不自由児施設と重度心身障害者施設を運営されており、この寄付金をもとに人工呼吸器を購入されたそうです。*会から相続人各位に対し心のこもった感謝状を頂きました。その写しを各相続人の皆様に(私からの感謝状も添え)送付しました。これに対し相続人の皆様から「故人の真意を生かしていただき有り難うございました」とのお手紙を多数頂戴しまして私も感激致しました。相続は「争い」という面が強調されることが多いのですが、こういう善意の集まりを形にする仕事に関与させていただけると、法律家冥利・弁護士冥利に尽きます。ある年、別件で出張をした際に*会を訪問しました。理事長から歓待を受け寄付金で購入された立派な人工呼吸器を拝見させていただきました。

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