法律コラム Vol.32

会社倒産と取締役の責任

 会社が倒産した場合に債権者が取締役責任を問題とするケースがあります(会社法429条が根拠法条)。が連帯保証人でもない取締役が常に倒産の責任を負わされるのは酷です。以下は倒産会社の旧経営陣を被告とする訴訟において被告側で主張したものです。

1 取締役責任の型について
  取締役責任には①直接損害型と②間接損害型がある。①は取引行為自体が違法と評価されるような場合(会社の資力と関係なく取締役が責任を負うもの)をいい、②は取引行為自体は適法だが会社の資力が悪化したために結果として取引に基づく債権が経済的に無価値となる場合をいう(商事法務研究会「判例便覧・取締役の第3者責任」11頁、佐藤鉄男「取締役倒産責任論」信山社)。原告が①を主張するのならば本件取引行為自体が違法と評価されるようなものであり被告らが会社の資力と関係なく責任を負うことが主張立証されなければならない。しかし原告の証拠を精査するも、かかる立証は為されていない。原告が②を主張する趣旨ならば管財業務との関係が問題となる。佐藤前褐書はかような態様の賠償金は全債権者への弁済原資として財団に組み入れられるべきとする。
2 倒産の原因について
  本件倒産の原因は*地区における*業界の構造不況にあり、破産管財人報告書では倒産原因として①売上の減少、②売掛債権の焦げ付き、③関連会社の業績不振、④運転資金不足が指摘されている。一般に倒産する企業は概ね債務超過状態にある。しかし、企業会計は複式簿記の原理に基づいて作成されるため、貸方と借方は常に一致するので倒産する企業は全て貸借対照表と実体に齟齬が生じている。かかる貸借対照表と実体の齟齬は企業破綻の「結果」であり「原因」ではない。原告主張によっても、貸借対照表と実体の齟齬の原因は「適切な会計処理をしなかった」という消極的なものであり、実体と異なる伝票類を偽造したといった積極的な行為によるものではない。
3 因果関係について
  原告主張によっても被告が意図的に内容虚偽の計算書類を原告に交付して取引に入らせたのではない。原告は被告と全く無関係に*調査会社から独自に決算書類を入手して審査を加え取引開始を決定した。ゆえに原告主張の因果関係は直接損害型で主張される態様ではない。

* 裁判官から「代表取締役が責任を認め原告はその余の取締役に対する請求を放棄する」旨の和解案が提案され、和解により本件訴訟は終了しました。

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