久留米版徒然草 Vol.207
傷と傷によって
村上春樹『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』に「人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。」という箴言があった。再放送『カムカムエブリバディ』(るい編)を観ていると同感の思いを強くする。海に向かう2人の場面はこの作品のヤマだ。
入水する錠一郎の姿を見つけたるいは大声で名前を呼びながら自ら海の中に入り彼を抱きしめる。トランペットが突然吹けなくなった錠一郎は「暗闇なんや…歩いても歩いても…。サニーサイドが見えへん」とつぶやく。るいは「怖がらんでいい。私が守る。あなたと2人で、ひなたの道を歩いていきたい」と応える(母安子の言葉と重なる)。あまりにも素晴らし過ぎる脚本。深津絵里さんが聖母に見えました。「生命を繋ぐ」とはこういうことだと感じさせられます。