敷金に関する意見書
顧問先の仕事で多いのは契約の締結終了に伴う法律問題の意見照会です。微妙な問題は文書で回答します。以下は賃貸人から多額の敷金控除を主張された際に提出した意見書です。
1 一般に敷金は貸し主に対する借り主の債務不履行による損害を担保する目的で授受されるもので、担保の範囲は①未払家賃②原状回復費③特別減耗分(借主の異常な使用に基づく減耗分)の賠償費が主なものです。契約開始前から存在する家屋の修復費や自然減耗費分は担保されません。本件契約は、②につき*条が、③につき*条が規定しています。
2 敷金は返還に際し当然控除を認める特約(敷引特約)が為されることがありますが、無条件に貸し主に金銭的利益を与えるものですから当該地域における慣習や特約を厳格に解釈し限定的に運用されています。本件*条は「建物補修費」として控除することを認めているに過ぎませんから、敷引特約でないことは明らかです。
3 問題は*条の「建物補修費」と上記②ないし③との関係です。文言を合理的に解釈する限り借主側が②ないし③の義務を尽くさず(原状回復をしなかったり・建物に通常損耗以上の傷を付けて)立ち退けば「建物補修費」として控除するという読み方になると思われます(それ以外の建物補修費を借主側が負担する法的根拠が存在しません)。したがって②ないし③の義務を尽くす限りは(原状回復をし通常損耗以上の傷を付けていなければ)本件において敷金から控除されるべき「建物補修費」は存在しないと考えます。
* 敷引特約は消費者契約法に照らし無効と判断する判例が増加していますが、当時は無かったように記憶します(地域の慣習として認められていました・特に関西地方)。現在であれば判例を引用して「敷引特約はそもそも無効である可能性がある」と述べることを検討しますが事業者に消費者契約法の適用はありません。本件事案は、意見書をふまえ顧問会社において先方と誠実に交渉していただいた結果、敷金は全額返還されることで無事に解決しました。
* 平成23年3月24日、最高裁は敷引特約が消費者契約法10条に抵触せず有効とする初めての判断を示しました。今後議論する際はご注意下さい。