5者のコラム 「芸者」Vol.73

すり減ってしまう自分

詩人まどみちおさんには「けしゴム」という詩があります。

自分が 書きちがえたのでもないが いそいそと けす。
 自分が書いた ウソでもないが いそいそと けす。
 自分がよごした よごれでもないが いそいそと けす。
 そしてけすたびにけっきょく自分がちびていってきえてなくなってしまう。
 いそいそと いそいそと  正しいと思ったことだけを
 ほんとうと思ったことだけを 美しいと思ったことだけを
 自分のかわりのように のこしておいて。

この詩にあやかって弁護士業務を表現します。(詩心は損なっています)
 自分が犯した罪ではないが いそいそと 詫びる。
 自分がついたウソでもないが いそいそと 謝る。
 自分が与えた損害でもないが いそいそと 償う。
 そうやってたくさんの人に頭を下げることで自分をすり減らしてしまう。
 いそいそと いそいそと  正しいと思ったことだけを
 本当と思ったことだけを 美しいと思ったことだけを
 自分の考える「法」の形として残しながら。
 これまで「他人の失敗」をいそいそと消せる人間になろうと努めました。仕事を始めて約20年。だいぶすり減ってしまった自分を感じます。

易者

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