5者のコラム 「学者」Vol.30

道路舗装工事のようなコラム作成

我妻栄博士は「民法講義Ⅳ」(岩波書店)の序文でこう述べます。

民法講義ⅠからⅦまでを書こうとする私の仕事はわが国の道路舗装工事に似ている。終点まで完成する前に初めの方が破損して用をなさなくなり、乏しい予算で補修工事と新設工事の両面作戦をしなければならない。貫通道路が完成するのはいつの日か。心細い限りである。(略)民法講義のそもそもの目的は大学の講義用テキストであった。それを一通り完成したら、さらに一層詳しいものを書くつもりであった。しかし今日となってはもはやその計画に従うことは出来ない。私の中にあるいろいろの野心がその時その時に私を動かして一貫した調子を持ち続けることを妨げているらしい。我が国の道路補修工事が、時には穴を埋めるだけであったり、時には一部分のやり直しであったり、時には調子の違ったコンクリートやアスファルト工事であるのと似ている。ともあれ、学者的生命の続く限り、一貫した本式の舗装工事の完成を最終の目的として、たゆまない歩みを続けるつもりである。

ある程度コラムを書き続ける方法論が確立して初期のコラムを読み返したら恥ずかしいものばかりでした。そこで初期の頃のコラムはほとんど書き直しています。この作業を行いつつ新規のコラムを書き続けています。私はこのコラムを何かのテキストにするつもりはありませんし、これを敷衍して詳しい書物を作成するつもりもありません。法律実務を違った視点にもとづき考え直してみたいという個人的興味に導かれて書き綴っているだけです。その時・その時で気付いたことを書き連ねているだけなので一貫した調子を保つことはとても望めません。そんな感じで書き続けて、気が付いたら、3年の間に180本のコラムを書いていました。私は学者ではないので生命をかけるつもりはありませんし一貫した本式の舗装の完成を目指すつもりもありません。

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