5者のコラム 「5者」Vol.164

水のようなリーガルマインド

以前「実務法曹のリーガルマインドは水に似ている」と述べたことがあります(医者35)。この記述を規範に用いて約29年の自分の弁護士生活を振り返ってみます。
1 実務法曹のリーガルマインドは場面に応じて姿を変える。これは意識してきたつもりです。社会から若干「異常な性質」を持つ人物であるかのように思われようとも、実務法曹の存在意義を否定するような行動は慎み「法曹として相応しい対応」を多少は心がけてきたつもりです。
2 私は実務法曹の特質である「固体的」思考(要件・効果の思考)を大切なものと考えています。しかし、それだけではダメなのでしょう。重要な場面で必要なのは「液体的」な思考(実質的な利益考量の思考)です。暫定的判断を積み重ねて正解を模索していくプロセスが大事です。
3 実務法曹は多様な人々の色々な悩みや欲望を引き受ける存在です。しかし、言うは易く行うは難いこと。自分自身が溶媒となって悩みや欲望を引き受ける力(溶解力)を持つのは一朝一夕で出来ることではありません。私は「水のごとき溶解力」を未だ持ち得ていません。
4 実務法曹は凝集力に支えられた存在でなければならない。地元法曹三者の集まりには可能な限り参加しています。弁護士会の仕事にも常に何らかの役割を担っています。法曹間の信頼関係は大事なものです。法曹界の「一隅を照らす」規範を私は失いたくありません。
5 実務法曹のリーガルマインドは「比熱容量が大きい」。容易には温まりません。私も自分が何をなし得るのかを見極めるのに結構な時間とエネルギーを必要としました。けれども今に至って自分が出来ることに多少見当がついてきました。いったん温まれば容易には冷めません。