5者のコラム 「役者」Vol.112

映画の感想2題

 映画「FOUJITA」(小栗康平監督)を観る。1920年代パリ(エコール・ド・パリの寵児となった藤田)と1940年代日本(軍部の要請で戦争協力画を描いた藤田)。時代に過剰適応した故時代の反撃を受けることになった天才の苦悩をオダギリ・ジョーが見事に表現している。弱冠36歳で「泥の河」を発表し自らの天才を示した小栗監督が今この作品を世に問うのは時代に過剰適応して不幸に陥った天才の生涯を示すことで現在の世間のいやらしさを示す意図かとかんぐりたくなる。純真な視線で見ても良いのですが、状況説明が少なく台詞に重みが与えられていること・映像の中に藤田の代表的作品がさりげなく使われていること・エンドロールの礼拝堂と壁画の意味が表示されないことから知識が無い人には理解しがたい部分が大いにあると思われます。林洋子「もっと知りたい藤田嗣治・生涯と作品」(東京美術)等を事前に読んでから観ることを勧めます。
 映画「はなちゃんのみそ汁」(監督阿久根知昭・企画村岡克彦)を観る。事前に原作本(文春文庫)を読んだ。映画は原作のエッセンスを生かしつつ別の作品に仕上がっている。原作者安武信吾氏は西日本新聞記者(久留米総局にも勤務)。原作は信吾氏の簡潔な文体と妻・知恵氏の闘病ブログを組み合わせて構成されているが、このままでは映画にならない。阿久根監督は音楽を映画の重要な要素として加えるとともに、代替療法・食文化継承の面を削っている。悪性腫瘍を患う女性が子供を産むことがいかなる意味を持つのか知り尽くしている妻と単純に喜ぶ夫の対比が印象的であった(私を含め男は馬鹿だ)。広末涼子の抑えた演技が素晴らしい。現在は福岡県内の先行公開ですが1月9日から全国公開が始まります。多くの皆様に劇場で御覧いただければと願います。

学者

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