5者のコラム 「5者」Vol.79

投下資本回収のリスク

富家孝「危ないお医者さん」(ソフトバンク新書)はこう述べます。

世間では医者は高額所得者と見られており医者になったら一生安泰だと考える人が多い。しかし、はたして本当にそうだろうか。まず医者になるためにはいくらかかるのか見ていこう。これは国立と私立では学費負担において天と地ほども違う(国立6年間で600万円ほど。私立で3000万円以上。なかには1億円近くかかるところもある。)(略)つまりこの金額が医者になるための直接投資である。では現在のところの最高投資額1億円はどの位で回収できるのだろうか。順調にいけば年収1000万円の医者になるのは勤務医の場合30歳を超えてからだろう。とすれば10年間で1億だから40歳でやっと投資がイーブンになる。(略)しかし、そうした「勝ち組」はまれで、やはり圧倒的に多いのがサラリーマンと同じように系列の病院にとばされたり一生助手や講師止まりというケースである。また医師への入口である国家試験に何度も落ちたり大学の医局に空きがなかったりと少しでも別のコースを歩めば医者とはいえ「負け組」に転落してしまう。

弁護士は医者以上に不安定な商売です。昔は司法試験に合格すれば経済的不安を感じることなく修習生としての生活をすることが出来ました。弁護士になっても食うに困らない仕事がありました。代わりに司法試験にギャンブル的要素が存在していたのです。これに対し今は司法試験にギャンブル的要素が少なくなった代わりに受験資格を得るため多額の費用がかかるようになりました。司法修習も自己負担となったため弁護士は出発時点で多額の借金を背負う制度になっています。仕事を始めても高学歴ワーキングプア的な状態が続き登録を抹消する若手弁護士も増えつつあるようです。市場原理主義者は投下資本回収が出来ない彼らを「負け組」と認識するのでしょうか?

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