5者のコラム 「易者」Vol.151

倫理を踏み外す行為をしない

山口周「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」(光文社新書)の記述。
 

ところが昨今いろんなところで起こっているのが、システムの急激な変化に対して法の整備が追いつかないという状況です。このような世界に於いて法律で明文化されているかどうかだけを判断の基準として用いる実定法主義的な考え方は危険です。なぜ危険かというと、単に「違法ではない」という理由で倫理を大きく踏み外してしまった場合、後出しジャンケンで違法とされてしまう可能性があるからです。旧ライブドアにしても、一連のDeNAの事件にしても、起きているのは「倫理が先・ルールが後」という順です。(略)2010年に、それまで消費者金融の業界で慣行として用いられてきたグレーゾーン金利(利息制限法に定める金利は超えるが出資法に定める上限金利には満たない金利)での貸し出しが裁判所によって「事後的に」違法とされました。この裁判の結果、過去に遡及して過払い金利の返還を請求する訴訟が続発し、多くの消費者金融が破綻に追い込まれました。

グレーゾーン金利が裁判所によって「事後的に違法とされた」という読み方には法曹実務家として異論があり得ます。最高裁は「任意性」という概念に関し下級審の「事実認定」を是認したに過ぎず「判例法」を明示的遡及的に変更したものではないからです。ただ、変化が激しい現代社会に於いて単に「違法ではない」という理由で倫理を大きく踏み外す行為は(社会的評価が変わったとき)事後的に「後出しジャンケンで違法とされてしまう危険性がある」という山口氏の上記指摘は正しいと感じます。こういう事後的リスクを最小限にするためには最初から「倫理を踏み外す行為」をしないに限ります。倫理を大きく踏み外す行為をしないため最も重要なことは(法曹実務家を含む)社会の指導者役の人間が「倫理を主導するための美意識を鍛える」ことなのですね。