5者のコラム 「医者」Vol.52

侵襲的な医療から訴訟を考える

弓削孟文氏は「手術室の中へ」(集英社新書)でこう述べます。

1 手術は「侵襲」的な医療であり、慎重に選択されるべき方法である。
2 手術に対する強い反応を抑えるのが麻酔である。
3 全身麻酔は生きている体をいったん非常事態に陥らせる方法である。
4 機能が抑制された状態の体に直接的な外傷を加えるのが手術。
5 手術室には手術にふさわしい環境と機器類・設備が整っている。
6 麻酔と手術侵襲とのバランスをとり手術を成功させるのが麻酔科医。
7 麻酔科医は患者さんの代弁者。信頼関係が大事。

訴訟で意識すべき点は次のとおりまとめることが出来ます。
1 訴訟は社会生活に傷をつけ得る侵襲的な手続です。慎重に。
2 訴訟による強い侵襲を抑えるのが弁護士の役割です。
3 侵襲を抑えるため弁護士は依頼者に麻酔をかけます。
4 訴訟は日常生活から切り離された空間において法的言語を用いて攻撃防御(直接的な外傷)を加え合うものです。限定された世界での疑似戦争に他なりません。
5 裁判所には疑似戦争にふさわしい環境や設備があります。
6 依頼者は日常生活も送っています。ゆえに両者のバランスをとることが不可欠です。静かな日常生活を守りつつ真剣勝負の戦争に勝つことが弁護士の役割です。
7 弁護士は戦時国際法のプロです。信頼関係の維持が大切です。

易者

前の記事

お酒と思想
学者

次の記事

自己本位を立証すること