法律コラム Vol.48

2010忘年会挨拶

 忘年会の冒頭で筑後部会長として行った挨拶です。飲み会の挨拶としては堅苦しいのですが、いろいろ思うことが多い1年だったので素直に表現してみました。

 私が小さい頃、21世紀という言葉には輝きが感じられましたが実際に10年過ぎてみると「輝きがないなあ・むしろ暗闇のようなものが目立つなあ」と感じるようになりました。弁護士業界に限っても、過払金バブルはとうに弾けて、案件は少なくなる一方です。法律相談センターの負担金収入も減少しつつあります。しかも本年は業務を原因とする弁護士への殺人事件が2件も(横浜と秋田)発生しました。そんな風潮に嫌気がさしたのか、若者の法曹離れが進んでおり法科大学院の受験者も減少していると報道がなされています。ある若手弁護士さんがブログに「弁護士業界は沈みゆく船のようなものだ」と書いておられました。そういう見方を全面的に否定することは出来ません。昔に比べれば船の乗り心地はずいぶん悪くなってきました。1等船室どころか2等船室、若手の中には船の一番下の倉庫のようなところで雑魚寝を強いられている人もいるようです。こんな船から逃げだそうとする人が出てくるのも判らないではありません。しかし私は逆の見方を提示したいと思います。明治時代のある小説家が自分が見た夢の話を書いています。この人は船旅をしていますが自殺を決意し船から飛び降りるのです。ところが甲板から足が離れた瞬間に命が惜しくなり心の底から「止せば良かった」と思うです。しかし水面は次第に近づいてきます。そのときに「自分は何処に行くのか判らない船でもやっぱり乗っている方がよかった」と初めて悟ります。そして無限の後悔と恐怖を抱きながら黒い波の方へ静かに落ちていったというのです。弁護士会という船は昔に比べれば乗り心地は悪くなっているかもしれません。しかし船があるからこそ我々は広い海を渡っていけるのです。船に穴が空いているのなら塞げば良いだけです。氷山が近づいているのなら舵を切って避ければ良いだけです。日弁連は乗客が3万人近い大型客船ですが筑後部会は乗客72人の小さい船です。ベテランの乗客はかつて船員を務めておられた方々であり若い乗客もいずれは自分が船をあやつらなければならないという気概を持って頂いています。大きい弁護士会の乗客には船のことに全く関心がない方や船員に文句ばっかり言っている方が多く存在します。しかし筑後部会では乗客と船員の間に距離感がありません。これが筑後部会の美点であり強みです。弁護士業界全体には厳しい波が押し寄せていますが、筑後部会のこの結束力の堅さを維持できるならば、この厳しい波を乗り切っていけるのではないかと私は少しばかりの希望を抱いております。

* 私は1月以降体調を崩していましたが部会長の任期が終了したら体調が良くなりました。自分がいかに組織に馴染まない人間なのか、骨身にしみて判りました。

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