法律コラム Vol.59

弁護士の不祥事と司法改革

福岡県弁護士会から全会員に対し修習24期の元九州弁護士会連合会理事長を懲戒請求した旨のFAXが届きました。後日詐欺罪の容疑で逮捕起訴されています。地元新聞も大きく取り上げました。私はフェイスブック上に書き込みをしたのでHP上でも紹介します。(若干補正)

1 九弁連大会シンポジウムテーマは「司法アクセスの解消」。違和感がある。司法アクセス論は「弁護士に対する潜在的需要はまだまだあるはずだ」という大前提のもとに顕在化を妨げているアクセス障害を取り除こうという議論であり、司法改革推進者が言い続けているものだが、大前提が間違っていると思う。今必要なのは潜在的需要論(夢のような観念論)ではなく、現実の弁護士の難儀を見据えて弁護士会の在り方や広くは司法改革全般をどう見直すべきかの議論(目前の差し迫った問題)だろう。皮肉なことに九弁連大会前日に元九弁連理事長が「事務所経費や生活費の不足のために」後見監督人の立場を使い4400万円を詐取した疑いで懲戒請求されたばかりだ。弁護士会は足元を固めていかないと、遠くない将来に致命的危機を迎えるような気がしてならない。
2 県弁会長名で綱紀粛正を求める声明が発表される。不祥事の原因が会員の心がけのみに存在するのならば「信頼を損なわないように」というお触れの意義も判らないではない。しかし問題は個々の行為者の内心だけに止まるものではないだろう。我々が刑事弁護をするときも声高に国家社会倫理規範違反を言う検察官主張に対抗して社会構造の問題を唱えることがある。弁護士の職務上の不正に関しても(行為者の責任が問われるべきは勿論だが)それに止まらず問題の背景になっている司法制度改革の在り方・弁護士の置かれている経済的状況・一部会員に負担が集中する弁護士会運営の在り方などにも考察が広がるべきではないかと感じる。昔は会長・理事長という仕事は名誉職であり将来的に顧客が増える要素だったのであろうが近時は実質的な激務になっている。今後執行部に就任するのは弁護士複数の事務所でないと危ないと思う。私が副会長になったときも経済的に苦しかったが周りの協力を得て何とか乗り切れた。でも今はそんな時代ではなくなっている。

* 不祥事の原因は個々の行為者に存在します。行為者が社会構造を理由にして責任逃れに使うことは許されません。しかし不祥事の背景に司法改革の影を全く認識しない改革推進者の論調には違和感を感じます。司法改革の再検討が早急に行われるべきだと考えます。

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