法律コラム Vol.121

土地賃貸借における原状回復義務

民法上、不動産の賃貸借における原状回復義務は当然に認められていますが「何処までの義務を肯定するか」に関して各論的に議論されているのは専ら「建物」の賃貸借です。近時「土地」における原状回復義務の内容が争われた事案を担当した(原告側)ので紹介します。

第1 油流出事故への対処義務の不履行
 1 基本的考え方
   環境省ガイドラインには「鉱油類を含む土壌に起因する油臭油膜問題への土地所有者等による対応の考え方」が示されている(甲*)。油を含有する土壌を敷地外に搬出する場合には搬出汚染土壌管理票等を使い適切に管理し適切に処理できる事業者に委託する等により「2次的な環境汚染」の発生を防止しなければならない。油汚染問題発見から調査の実施・対策効果の確認までの作業を「記録し保存しなければならない」。対策完了までの間、必要に応じて「関係者への説明や協議を行う」ことが求められる。対策として盛土・舗装・掘削・除去・原位置浄化についての考え方が各々示されている。掘削除去の場合は油含有土壌を十分に堀削した上で油含有土壌は最終処分場・セメント製造施設・加熱処理施設等において適法に処理し清浄土により埋め戻しを行う(必要に応じ敷砂利等を設置する)。汚染された土壌は全部入れ替えなければならない。当然のことながら汚染土壌は適法にマニフェストを発行するなどして処理すべきである。油流出事故に対しては環境法を構成する土壌汚染対策法・産業廃棄物処理法・水質汚濁防止法など厳しい諸法令を遵守した厳格な原状回復作業が求められるのであって諸法令に精通しない「ど素人」に作業をさせてはならない。
 2 本件における適用
  (略)
第2 明渡に際しての整地義務の不履行
 1 基本的考え方
   整地とは簡単に言えば「土地を平らで綺麗にすること」である。建物解体工事をする場合には土地が掘り返されてデコボコの状態となるのでこれを重機等を使って平らに均していく作業を行う。これが整地である。その後で砕石を薄く蒔くところまで行うのが常識とされている。一般に賃貸借契約が終了する際に賃借人は目的物を「原状に復して」賃貸人に返還すべき法的な義務がある(民法616条・598条)。この義務は「賃貸人が返還すべき物は借りたもの自体である」という賃貸借契約の性質から当然に認められる義務である(内田民法Ⅱ203頁)。「デコボコ状態のまま返せば良い」という特約が存在しない限り賃借人は土地を整地して(重機等で土地のデコボコを綺麗に均して)返還しなければならない。解釈論上、当然のこと(我妻講義V2・466頁「六七七」3行目)のみならず実務上「当たり前」として広く認知されている社会的常識である。
2 本件における適用
  (略)

* 福岡地裁久留米支部は第1の論点(請求金額の約3分の2)について当方主張を認め賠償を命じましたが、第2の論点については(数十年前に)貸し渡した際の「原状」が明らかでない・原告は返還に際して異議を留めていないとして認めませんでした。確かに「原状」がデコボコだったのであれば整地する筋合いはないのですが、数十年前の原状を証明する写真等の立証手段がない以上「土地所有者にとっては若干酷な判断ではないか」と感じてしまいます。
* この判決は双方から控訴がなく確定しました。支払いも完了しています。

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