法律コラム Vol.57

交通事故賠償における法定充当

 交通事故賠償において加害者(損保)側から支払われた金員は賠償計算においてどう扱われるのでしょうか?私は常に遅延損害金から充当する立場で訴状を構成しているのですが加害者(損保会社)被告側は「元本に充当する黙示の合意があった」「遅延損害金を免除する黙示の合意があった」と反論するのが常です。以下はこの論点について私が最近使っている書面です。

 被告主張は以下の点に照らし全く理由がない。
1 民法491条は債務充当順序を費用・利息・元本と定めている。これが両当事者の合理的意思に合致し公平に資するからである。一方当事者の指定によりこの順序を変更することは出来ない。
2 不法行為による損害賠償請求権と遅延損害金は請求によること無く直ちに発生する(四宮不法行為346頁)。債務者からの放棄・免除等に関する具体的意思表示が無い限り発生を続ける。このことは人身傷害保険の代位に関する最判平成24年2月20日に於て更に明確になった。
3 被害者が事故後に発生した具体的な元本額の内容を知ることはない。遅延損害金の具体的な額を知ることもない。元本と遅延損害金を比較して前者に充当する意思を持つことなどあり得ない。
4 被害者が病院等の支払で意識しているのは自分が直接に病院に支払をする必要は無いという程度の漠然としたものに過ぎない。具体的に損害賠償請求権元本と遅延損害金を比較して充当方法を考慮しているような事態は絶対に存在しない。
5 最高裁が社会保険給付につき元本充当を認めたのは社会保険制度の高度の公共性に鑑みてのことである。しかし同時に最高裁は自賠責保険にもとづく入金につき遅延損害金からの充当を明示する(最判平成12年9月8日、平成16年12月20日)。政府が管理する(公共性の高い)自賠責保険からの入金についてすら元本充当は認められていないのである。加害者の代理人たる任意保険会社からの入金に自賠責を超えるほどの公共性が認められるはずはない。

* 当職が関与した判決は高裁レベルでも黙示の合意を否定し法定充当を認めています。損保代理人の話によると訴状レベルで法定充当を主張している被害者側代理人が多くないようです(「既払金控除」として自ら元本充当)。高度後遺障害の場合は法定充当をするか否かで1000万円以上もの差異が生じることもあります。被害者代理人が元本充当を主張してどうするんだと思っています。

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