法律コラム Vol.53

ゴルフ場に対する預託金返還請求

いわゆる「ゴルフ会員権」なるものの実体は単なる「預託金」であり株主の如き「社員たる地位」ではありません。以下は某ゴルフ場に対する預託金返還請求訴訟において原告側で述べたものです。
(参考文献:服部弘志「ゴルフ会員権の理論と実務」商事法務研究会、東京弁護士会研修叢書26「バブル崩壊に伴う法律問題」、高山征治郎「ゴルフ会員権相談最前線」ぎょうせい、など)

1 預託金制ゴルフ会員権の意味
 我が国のゴルフ場は当初「社団法人」(公益法人)としてスタートしたものであるが(神戸ゴルフ倶楽部:明治36年)その後、昭和30年頃を境に設立許可が下ろされなくなったので(公益性に疑問が持たれるようになった)営利法人として「株主会員制」ゴルフ場が出現するようになった。いずれにせよ、ここまでは「会員権」に実体があり、法人への債権はなく、社団の会員としての共益権行使が権利の柱だった。しかしながら会員の共益権はゴルフ場運営者にとって足かせでもある。そこで「手っ取り早く金を集めつつ会員に口は出させない」安易な方策として普及したのが「預託金制」である。これは「会員権」とは称していても実体は単なる<借金>であり、制度の本質として償還期限後には金を返すことが予定されている。あまりにも簡単に金を集められるので「茨城カントリークラブ事件」等スキャンダルが相次いだ。バブル崩壊前に既に開場していたゴルフ場はバブル全盛期には我が世の春を謳歌した。しかし、バブル崩壊により多くのゴルフ場(名門コースを含む)が預託金返還請求を受けるようになった。何故なら会員権相場が崩れたため権利者は(会員権の売却ではなく)ゴルフ場に履行(預託金返還)を求めるようになったからである。多数の訴訟が提起され多くが認容された。負担に耐えられないゴルフ場の多くは民事再生手続を選択した。
2 据置期間延長決議に関する判例の推移
 理事会で一方的に据置期間延長を決議しても反対を明示する会員への拘束力はない(最判昭和61年9月11日)。この判例は現在も変更されていない。以後の大多数の下級審判決は認容判決である。刑事の有罪判決と同じように、認容判決はニュースバリューがないから目立たないだけである。当職も岐阜地裁で認容判決を得ている。このときもゴルフ場側は被告と同趣旨の主張をしたが、退けられている。上記最判に一定の例外を認める下級審判例が出ていることは当職も当初から認識している。これらの下級審判決はバブル崩壊を「事情変更の原則」に妥当するものと考え、個別事案として実質的に上記最判の射程範囲外においたものと考えられる。その個々的な当否は今は問わない。個別事件に対する下級審の判旨に過ぎないからである。
3 本件事案の判断要素
  本件は平成*年(バブル崩壊後相当の時間が経過)に募集されたゴルフ会員権である。平成*年からの*年間に「事情変更の原則」に該当する事実が発生したことはない。被告は乙*号証をあげて「*月*日現在で少なくとも**・*パーセントの会員が延長に同意している」と主張する。この数字の現時点の詳細な内容を明らかにされたい。上記時点から半年も経っているし*月*日の償還期限も経過している。現時点での数字が出せないわけがない。多数の会員が延長に同意しているならば、債務状況に関する被告主張は大げさなものと評することが出来ることになる。仮に被告が民事再生手続を準備するまで苦境にあるというのならば、その具体的根拠を数字を上げて説明して頂きたい。そうでなければ預託金債権者の納得は到底得られないであろう(仮にかかる状況が見受けられるとしても被告の経営判断の甘さを表象するだけである。それは債権者の犠牲を強いるものではない。)

* 被告は札幌地判平成14年8月28日、水戸地裁下妻支部平成15年2月7日、東京地裁平成16年2月10日などを根拠に抵抗しました。裁判所から「被告は原告に対し全額の支払義務を認め、頭金として約3分の1を直ちに支払う・残額は長期分割で返済する」ことを骨子とする和解案が提示され、原告被告ともに応じたために裁判上の和解が成立しました。

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