法律コラム Vol.138

大腸内視鏡検査の医療過誤

初期の頃は医療過誤事件をよく受任していました。その1つに大腸内視鏡検査により腸管穿孔が生じ汎発性腹膜炎を発症させた事案があります。私が単独で訴訟提起し和解解決を得た最初の事案なので(それ以前は研究会での複数受任)明瞭に記憶しています。注:大幅に抽象化しています。

1 事実
  原告は健康診断のため*年*月*日、*(被告が設営する医院)を受診した。同日午後*時*分原告は被告から大腸内視鏡検査を受けた。内視鏡検査により穿孔が生じ得ること・腹膜炎等の重篤な疾患が生じ得ることの説明は受けていない。内視鏡検査が始まって間もなく原告は腹部に痛みを覚え被告に訴えたので検査は途中終了となった。しかし激しい痛みは治まらず原告は*時*分頃、救急車で*病院に搬送された。翌*月*日*病院で消化管(S状結腸)穿孔が生じていることが判明した(被告は腸管穿孔が自分の内視鏡操作により生じたことを争っていない)。原告は汎発性腹膜炎により瀕死の状態となり死の切迫した危険に晒された。原告は*高度救命救急センターに搬送され緊急手術を受け一命は取り留めた。しかし人工肛門増設が避けられず以後は腹部の人工肛門からの排泄を強いられた。原告は*月*日まで腹膜炎後の腸管癒着症により*病院で入院加療を受け*月*日に人工肛門切除術を受けた(*日入院)。原告は主治医から腸管癒着による腸閉塞の可能性を指摘され1年間の経過観察となった。本年*月*日時点で腸閉塞は生じておらず症状は一応固定した。
2 責任原因
  内視鏡により腸管穿孔が生じた場合、大腸の内容物が腹腔内に流出し急性腹膜炎を生じ得る。急性腹膜炎は死に至る危険がある重篤な疾患である。内視鏡検査は大腸内の限られた視野の中で器具を間接的に操作するものであり独特の危険が存在する。ゆえに内視鏡検査を実施する医師には上記危険性をふまえ内視鏡を慎重に操作すべき注意義務がある。被告はかかる注意義務に反し漫然と操作した過失により原告に腸管穿孔を生じさせ、本件重篤な被害を招いた。よって被告に原告の被った損害を賠償すべき契約上の責任ないし不法行為責任があること(選択的併合)は明らかである(類似事案:大阪地裁平成10年2月23日・判タ974号186頁及び判時1667号91頁参照)。

* 本件は裁判所から相当な和解案が提示され両者が同意したので和解で終了しました。
 和解の争点は慰謝料の算定でした。傷害慰謝料に関し人工肛門による屈辱的な感情及び死の恐怖に直面させられた点が、後遺障害慰謝料に関し将来腸閉塞が生じ労働能力喪失が生じ得ること及びケロイド状の醜状痕が残存し苦痛であることが各々考慮されました。(平成17年)

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